こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
人の成長に影響を与える要素として、こんな疑問はありませんか。
✓遺伝と環境はどっちが影響強いの?
✓環境次第で人はどうとでもなるの?
✓人の学習は早ければ早いほどいいの?
発達心理学を学ぶうえでこの話は欠かせません。
人の成長に影響を与える説は複数ありますが、今回は心理学の中でも有名な成熟優位説を中心に解説していきます。
【ネタバレ】遺伝も環境もどっちも影響するんだけどな
本記事を読むことで、心理系大学院頻出である発達心理学の中でも人の成長の考え方を知ることができます。
そうでない人にとっても、乳幼児の成長に関する知識を今より身に着けることができるので是非最後までご覧ください。
こんな人におすすめ!
・発達心理学や子どもの成長に興味がある
・成熟優位説やA. L. ゲゼルについてきちんと知りたい
・小さな子どものいるパパママ
・教師や保育、教育関係者
※心理系大学院受験生は必須
人の発達は環境次第?
心理学の歴史上、当初は心や意識といった実体のないものへの批判として、J. B. ワトソンが客観的に観察可能な行動を分析しようと行動主義を提唱しています。
行動主義のJ. B. ワトソンは『パブロフの犬』で有名なレスポンデント条件づけに注目して、『アルバート坊やの実験』という恐怖の植えつけ実験を行った人でもある
心理学界隈で有名なこのJ. B. ワトソンは、ざっくりこう言いました。
ワトソン「私に10人くらいの新生児と養育環境を預けてくれたら、その子の能力云々抜きにして望み通りの職業になるよう育ててやるよ」
J. B. ワトソンが提唱した行動主義では、人の発達は遺伝や個人差などを無視して、適切な環境からの条件づけで成立するという極端な考えがありました。
極論はもちろん叩かれたけど必要な杭だった
そこから議論が進み「後天的な学習のみで人の発達は本当に決まるのか?」と異議を唱えたのがA. L. ゲゼルで成熟優位説のことです。
成熟優位説(maturation advantage theory)とは
成熟優位説ではJ. B. ワトソンの行動主義(環境優位)を反対し、「人の発達は遺伝的な素質である程度決められている」という考えで、A. L. ゲゼルが提唱しました。
人には学習可能になる準備状態(レディネス)があり、レディネスは子どもの心身がある程度成熟することで整うと考えられています。
そのため、レディネスの整っていない状態でいくら学習しても学習効果は得られないという説です。
教育熱心親「なんだってぇ?!」
階段のぼり訓練
A. L. ゲゼルの成熟優位説でもっとも有名な実験で『階段のぼり訓練』があります。
▼階段のぼり訓練
一卵性双生児のCとTで行った実験。
Tには生後45週目から6週間、Cには生後53週目から2週間、階段をのぼる訓練をさせた。
→短期間しか練習していないCの方が、Tよりも早く課題をクリア
この結果は、Tはレディネスが整っていない状態で訓練を始めたため意味がなかったと考えられました。
一方で、Cは階段のぼりという運動についてレディネスが整った状態で訓練を始めたため、短期間で階段をのぼれたと考えられています。
立ち歩きできてそうな年齢のCの方が上達は速そう
成熟優位説が正しい!という訳ではなく、あくまでJ. B. ワトソンの行動主義の考え方(環境が整えばどうとでもなる)に対する反論と覚えておきましょう。
レディネス整ってなくても学習続ければ、レディネス整う時期に入りそうだよね
「待つ」は効率良いかもしれない
なお、レディネスを待つよりも促すことが必要な教育ケースもあると言われているので、下記記事も参考にご覧ください。
その後の発達要因説
環境が大事、遺伝が大事と意見が分かれていましたが、正直どちらも大事なんだろうということがなんとなく分かりますね。
環境と遺伝要因のどちらも考えた説を最後に2つ紹介するので、心理系のみなさんはしっかり覚えておきましょう。
何故理論になると難しい漢字を使うのか
環境+遺伝=輻輳説
環境を整えればどうとでもなると説いた行動主義の考え方や、学習準備状態のレディネスを整えることが大事とした成熟優位説の他に、人の成長は環境と遺伝要因を統合したものだという輻輳説(by W. Stern)もあります。
W. SternはIQという概念を提唱した人
ちなみに読み方はシュテルン
(ずっとスターンって呼んでた…)
輻輳説では、たとえば身長を伸ばすには両親の遺伝要素8割+牛乳を飲むなどの環境(努力)要素2割で決まるといった、遺伝も環境もどちらも独立していると捉えています。
環境×遺伝=環境閾値説(environmental threshold theory)
環境閾値説では、遺伝や環境のどちらかで人の成長が決まるわけではなく、遺伝的な素質が環境の影響を受けて開花するという考えで、A. R. Jensenが提唱しました。
閾値…一定水準を超えたかどうか分かるライン(値)のようなもの
身長が伸びやすい遺伝要素+牛乳を飲み続ける環境(努力)で背が伸びるにしろ、身長には限度がありますね(輻輳説だと天井なく成長してしまうイメージ)。
伸び続けるわけではないね
環境閾値説だと、素質(遺伝)に加えて一定の環境(努力)があることで成長するイメージ。
たとえば、学力や音感などは両親にその素質があったとしても(遺伝要素ありだとしても)、本人が勉強したり楽しく関わり続けたりする環境(努力)要素がなければ能力は開花しづらいといえます。
頭良い親の子どもだからって少し勉強すれば良い訳じゃない
遺伝のタネは土や肥料になりうる環境があって、一定水準(閾値)に達すると発芽するというイメージで、環境閾値説の考え方が現在の主流な考えです。
おわりに:人の発達には遺伝も環境も必要
「あいつは才能あるから」「良い環境で育ったから」などよく耳にする言葉ですが、人の発達には遺伝要素も環境要素もどちらも相互に影響し合っており、欠かせない要素です。
つまり、才能など人の能力が開花するためには一定水準の環境もいるというのが主流な考え方です。
心理学的な考えの移り変わりとして、今回は以下の4つを紹介しました。
・行動主義(環境優位)
・成熟優位説(遺伝優位)
・輻輳説(遺伝+環境)
・環境閾値説(遺伝×環境)
遺伝も環境も成長にはどちらも大切ですが…環境はともかく遺伝は分かりにくいですね。
一定水準(閾値)の環境に達することで遺伝要素が発芽するのであれば、まずはその人にとっての環境を整えることを優先しても良いかもしれません。
あなたの能力が開花するかもしれないよね
子どもに無理強いをさせたり、厳しすぎるスケジュールで学習することがあれば見直してみましょう。
乳幼児は特にレディネスを整える・待つことも大事だよ
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