こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
心理学には、主に幼児期からの心の発達過程に注目する理論が多くありますが、実は幼児期以前の乳児のための精神分析(対象関係論)があります。
✓対象関係論って何?
✓赤ちゃんの心理って?
✓心の成長にはどんなことが必要なの?
✓乳児に精神分析って意味あるの?
本記事では対象関係論の基本についてざっくり解説します。
乳児に対する精神分析の有効性は先人の間でも議論されていますが、身近な赤ちゃんと照らし合わせてみると面白さがありますよ!
心理系大学院受験生にとっては、理解につまづくライバルが多いので、対象関係論で周りと差をつけることも可能です。
そうでない人にとっては、赤ちゃんをより1人の人間として見る視点を得られるので、子育ての参考にしてみてください。
こんな人におすすめ!
・対象関係論について理解したい人
・乳児の心の発達過程に興味がある人
・心理職や保育職などの受験生
・身近に赤ちゃんがいる人
※心理系大学院受験予定の人は必須!
対象関係論(object relations theory)とは
対象関係論とは、生後間もない乳児が母親(養育者)と関係を築いていく過程を示した理論です。
M. クラインが創始して、他の心理学者が新たな理論を発展させています。
「対象」というのは、赤ちゃんの心の世界での母親像を指し、赤ちゃんが心の世界で思い描く母の姿(表象)との関係性をみていきます。
赤ちゃんがイメージする母親像との関係性かぁ…
(※かなり抽象的で分かりにくい理論)
ちなみに、児童精神分析に興味のある人はこちらを読んでみても良いかも。
対象関係論はどれも抽象的な内容で分かりにくいため、1冊読んでイメージを固める方が理解しやすいと思われます。
対象関係論の背景論争(院試・受験用)
対象関係論は、赤ちゃんと「対象」との関係から、赤ちゃんの依存性や無意識を重視した精神分析です。
そして、赤ちゃんに注目した精神分析について、児童精神分析代表のアンナ・フロイト vs 対象関係論代表のM. クラインで対立しています。
▼アンナの言い分
S. フロイト(アンナの父)の発達理論によれば、親との関係はエディプス・コンプレックス(男根期:3~6歳頃)を乗り越えることで築かれる。
→赤ちゃんの精神分析に批判
男児のバナナの危機のアレです
\【必須】エディプス期の復習はこちら/
▼M. クラインの言い分
乳児の遊びや共感にも意味がある。男根期より前でも母との関係を築く力はある。
→赤ちゃんの精神分析も有効
アンナとクラインの対立がヒートアップした結果、どちらの理論も整えられて、アンナ派・クライン派に属さない独立派や中立派の対象関係論が生まれた背景があります。
対象関係論の独立派・中間派だとD. W. ウィニコットの対象関係論が有名
どっちが正しいという問題ではなくて、受験生はこの流れを抑えておきましょう。
乳児にも精神分析を当てはめられるって考えもあるんだね
M. クラインの対象関係論の特徴
M. クラインの対象関係論では、赤ちゃんの養育者=専ら母と考え、赤ちゃんは乳房を母の一部(対象)として認識すると考えます。
oh……まぁ、象徴的だよね
赤ちゃんは、乳房に対して葛藤を抱きながら親との適切な関係を築いていくとし、妄想分裂ポジションと抑うつポジションを揺れ動きます。
また、赤ちゃんの未熟な防衛機制(心の守り方)を原始的防衛機制として、大人子どものそれと区別します。
1つずつざっくり解説していくよ!
妄想分裂ポジション
妄想分裂ポジション(生後4ヶ月程度)では、まだ「お母さん」という全体像で捉えることが難しく、「乳房」という部分対象で捉えるんだとか。
▼赤ちゃんのイメージ
良い対象(乳房)…母乳をくれて安心感を与えてくれる
悪い対象(乳房)…赤ちゃんの欲求を満たしてくれない
「良い対象」には愛情を感じるなど理想化し、「悪い対象」には自分に良くしてくれない=攻撃性を感じると考えます。
母の一部である乳房に対して理想的な良い面も、嫌な面も抱くので、乳房=良いものという妄想が分裂する(定まらない)イメージ。
ベビ「同じお〇ぱいなのに…何故だ?!
」
母(の一部)に対して良い面・良くない面を感じることが乳児の成長に必要なため、授乳がうまくいかない=悪い事と、母側が落ち込む必要はありません
抑うつポジション
抑うつポジション(生後4ヶ月以降)では、今まで母=乳房という部分的な理解だったのが、「良い乳房も悪い乳房もどっちも同じ母」と全体対象として見れるようになります。
ようやく真理にたどり着いたか
今まで攻撃性を向けていた悪い乳房も実は大好きなお母さんだったと気付くことで罪悪感を感じ、気分が落ち込む(抑うつ的になる)時期です。
生後間もなく葛藤が激しい
葛藤を抱えきれずにまた妄想分裂ポジション→抑うつポジション…と揺れ動くなかで、母への愛情が悪い乳房に向けていた攻撃性や罪悪感に勝ることで、母との適切な関係性を築いていくという考え方をします。
2,3歳頃には、良いも良くないも含めて「お母さん」という全体像を捉えることができると言えます。
赤ちゃんが葛藤しながらも「お母さん=良い対象」と思えるように、赤ちゃんを見守ったり要求に応じてあげたりしたいものですね。
乳児期の関係づくりは思ってるよりずっと大事よ
胸への葛藤を乗り越えられるように大事にしてくれぃ
原始的防衛機制とは
M. クラインの対象関係論のもう1つの特徴として、原始的防衛機制があります。
人は成長するにつれて嫌な体験や欲求を感じたときに心を守る防衛機制があり、原始的防衛機制とは乳幼児期に働く初期の心の守り方です。
\防衛機制の種類を確認/
原始的防衛機制の代表例は分裂と投影性同一視です。
分裂(splitting)
分裂は、1つの対象に対して良い対象と悪い対象に分けることで、矛盾を避ける防衛機制です。
妄想分裂ポジションで見られる方法ですね。
成長していく中で分裂を使い続けてしまうと、境界性パーソナリティ障害(BPD)などに発展する可能性があるともいうので、分裂からは卒業していけるといいですね。
▼不適切な分裂の例
・「彼氏くん優しくて好き好き!」(彼氏の優しい以外の面は無視して極端に理想化)
→怒られると「彼氏くんが優しくないなんて…受け入れられない!あなたは彼氏くんじゃない!」(同じ彼氏に変わりないのにディスりまくる)
分裂は、1人の人として見れないんだね
\ 人格障害全部言える? /
投影性同一視(projective identification)
投影性同一視は、部分対象(多くは「悪い対象」)に自分の悪い部分を重ねて、自分の悪い部分をあたかも対象がもっているかのように振る舞う防衛機制です。
ほええ????
赤ちゃんと乳房の話で言うと、欲求を満たしてくれない乳房(悪い乳房)に対し、赤ちゃんは死ぬかもしれない不安や怒りを悪い乳房に向けます。
その不安や怒りは赤ちゃん自身が感じる感情ですが、自分の感情=悪い乳房の感情と同一視して「悪い乳房が赤ちゃんを不安にさせたり攻撃してくる」と捉えることです。
これは自我芽生えてからも続けると相当厄介では…?
▼投影性同一視の例
・注意してきた彼氏を見て、傷ついた感情や「自分が注意するのは嫌いな相手」などを彼氏に向ける。
→「彼氏には私を傷つける悪意がある!私を嫌ってる!」とヒステリー
投影性同一視は病理につながるとも言われてきましたが、正常な人にも時折見られるものです。
傷つくことから自分を守るという意味では、大切な方法かもしれません。
極端ではあるからやりすぎには注意だね!
おわりに:乳児が思い描く母親像の変遷を知ろう
対象関係論は自我がまだ定かでない乳児の精神分析です。
M. クラインが提唱し、同じく児童を専門とするアンナ・フロイトと対立したことで、発展していった背景があります。
▼アンナとクラインの対立
・アンナ…親との関係性を築くのはエディプス期以降。乳児の精神分析は意味△
・クライン…エディプス期前でも精神分析の当てはめは可能
乳児の思い描く母親像を対象に、「良い乳房」と「悪い乳房」に分裂して母の一部を認識する妄想分裂ポジションと、良いも悪いもどちらも母だと知って罪悪感などに悩む抑うつポジションを揺れながら、母との関係を築いていきます。
部分的に見ていたのがだんだん全体的に捉えられるようになるんだね
また、乳児の頃から心を守る働きが見られます。
対象関係論を知ることで、赤ちゃんが今どんな段階にあるのかを見守ることができますね。
赤ちゃんが葛藤を感じながらもお母さんを肯定的に捉えられるように、子のイメージを重視する温かい関わりもまた重要でしょう。
\対象関係論入門はこちら/
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