こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
乳児を対象とした精神分析である対象関係論には派生があり、今回ざっくり解説するD. W. ウィニコットの対象関係論は独立派や中立派と呼ばれる理論です。
心理系大学院を目指す受験生にとっては、専門科目で差をつけるポイントにもなります。
✓対象関係論っていくつかあるの?
✓ウィニコットの特徴が分からない(初耳)
✓乳児に興味ないから試験で出たら捨てよう
↑by 当時の筆者
本記事ではD. W. ウィニコットの対象関係論のキーワードの解説と、発達過程について解説します。
当時の筆者のような受験生や心理学に興味のある人は、是非最後まで読んでキーワードを抑えましょう!
そうでない人も、赤ちゃんがやたらとおしゃぶりやシーツに執着するあの現象について知れるので、赤ちゃんに関心があれば是非流し読んでみてください。
勉強回!対象関係論の基本は↓
D. W. ウィニコットの対象関係論とは
対象関係論では、S. フロイトが提唱したエディプス期(男根期)以前の乳児について、母子関係における自我の発達を扱います。
生後間もない赤ちゃんが、母親との関係の中でどうやって自我を成長させるかだね(既にムズイ…)
\ エディプス期は要復習! /
対象関係論はM. クラインの考えが出発点で、乳児への精神分析の適応については、クラインvsアンナで大きく対立済み。
先人が対立論争した甲斐あって理論は発展し、M. クラインの視点を取り入れてD. W. ウィニコットが提唱した対象関係論は、俗に独立派・中間派と呼ばれる理論で、母親を環境要因として捉えます。
赤ちゃん視点で「母親=お世話してくれる環境」と考えよう
D. W. ウィニコットの対象関係論のキーワードはこちら。
★移行対象(transitional object)
★ほどよい母親(good-enough mother)
★原初的没頭(primary maternal preoccupation)
☆錯覚 / 脱錯覚(illusion / disillusion)
☆ホールディング(holding)
D. W. ウィニコットと言えば対象関係論のほかに、スクイッグル法(相互なぐり描き法)という描画法も開発。殴り描きを見せ合うやつ
最低限「ウィニコット=移行対象」のイメージは持とう!1つずつイメージしてこう
D. W. ウィニコットの理論では、乳児の母子関係の発達過程を以下の4段階に分けています(段階までは覚えなくていいかも)。
①絶対的依存期(0~6ヶ月)
②移行期(6ヶ月~1歳)
③相対的依存期(1~3歳頃)
④独立準備期(3歳以降)
特に移行期が有名ですが、全体的な流れはなんとなくのイメージで良いので覚えておきましょう。
①絶対的依存期(0~6ヶ月)
乳児は明らかに無防備な状態で誕生するため、初期は母親(養育者)からの全面的な保護やお世話がなければ生存自体が難しい時期です。
絶対的に依存しないと生きれない時期
坊「ママ(パパ)だけが命綱」
そのため、乳児は母親に絶対的に依存し(錯覚)、母親は乳児のことをお腹にいるときから自分の一部だと思い込み、互いに一体感を感じやすいとか。
母親が乳児との一体感に囚われて、自他の分離がまだできない精神状態を原初的没頭と言います。
ゾッコンってことだな!(死語)
原初的没頭状態の母親は、周りに注意を払うことが難しくなりますが、絶対的依存期の原初的没頭は健全な状態を指します。
産後直後には当然の反応なんだね
子が成長しても「ママとキッズは一心同体♡」なら、母子分離できてなくてマズいなぁ
わが子と一体の状態で、母親が乳児へのお世話や情緒的なスキンシップを繰り返していくこと(ホールディング)で、乳児は「自分は大切にされてるぞ」と母親へ信頼を感じていくと考えられています。
ホールディングは抱っこだけじゃなく、絶対的依存期に母という環境が赤ちゃんに与える関わり全てを指す。授乳、入浴、排泄、笑いかけetc. 母が赤ちゃんを包み込むイメージ◎
大変なときもあるけど母ちゃんお疲れ様です
②移行期(6ヶ月~1歳)
生まれて間もない乳児は、常に欲求を満たしてくれる母親に完全に依存していたはず(錯覚)が、移行期になると母親もほどほどに接して(ほどよい母親)しつけも少しずつ始まり、母親に抱いていた全能感や理想が崩壊していきます。
「ほどよい」くらいでいいんだね
✓ほどよい母親…原初的没頭の状態から我に返り、「過度なお世話」ではなくほどほどに愛情を向け、子どもと楽しく過ごせる母親の状態
赤ちゃん的には少しずつうまくいかない感覚で不安も覚える時期だね
過保護すぎるお世話やネグレクト気味な対応では、子どもは身勝手な母親に従わされる感覚を抱き、ガードの固い(防衛的な)態度になりやすいと。
わが子のために何でもしたくなるかもだけど、乳児の求めに応えるくらいでいいんじゃないかな
この時期の乳幼児は、母親の全能感を思い出させる移行対象に触れて、欲求不満や不安を和らげると考えられます。
✓移行対象…子どもに、母親の愛情や温かさ、優しさなどの母親代わりの満足を与え、子どもの心を安定させるもの(対象)のこと
お気に入りのぬいぐるみとか毛布とかタオルとか!
ライナスの毛布やな(スヌーピー)
▼移行対象の流れ(※受験生用)
絶対的依存期:おしゃぶり、喃語
移行期:毛布・シーツ、オムツなど身の回りの物(一時的移行対象)
相対的移行期:人形、ミニカーなど玩具(二次的移行対象)
乳幼児は毛布などの移行対象に触れることで、移行対象が現実世界の物でありながら心理的に安心できるもの(イメージとしての安心感)と理解していきます。
毛布とかはただの物でもあり、愛情の象徴でもある!
移行対象には母親からの分離と自立心を促す役割があります(脱錯覚)。
✓錯覚…誕生したばかりの頃に、自分≒母親だと感じること
✓脱錯覚…移行対象で満たされながら、自分≠母親だと気付くこと
お気に入りの人形や毛布は取り上げずに見守ってあげよう
③相対的依存期(1歳~3歳頃)
子どもは、移行対象に触れることで自分と母親が別人であることを認識し始めて(脱錯覚)、自分と母親と第三者(父親やきょうだいなど)との三者関係も理解していきます。
だんだん子どもの世界が広がっていくよ
この時期になると他者を意識するようになり、嫉妬や競争心など他者へ向ける感情を体験し始めると言われています。
外の世界に興味関心が広がっていくことで、また訪れる母子分離の不安や恐怖を乗り越える心の準備が進むとか。
3歳頃までの母子関係が全てではないけど、やっぱり子どもの心の成長に重要なんだね
④独立準備期(3歳頃~)
3歳を過ぎる頃から、今まで感じてきた母親(養育者)への依存心が少しずつ弱まっていき、外の世界の対象(友だちなど)や出来事へと興味関心が移行していきます。
完全に母親から自立する訳ではなく、子どもが外の世界にも目を向けられているかがポイント。
3歳頃は発達のターニングポイント
おわりに:母親への依存から少しずつ外の世界を知る理論!
対象関係論は、聞きなじみもなければ抽象的な理論なので、心理系大学院受験生も一般の人も理解が難しい内容の1つといえます。
D. W. ウィニコットの対象関係論は、母親(養育者)を環境と捉えて、乳児の自我の発達をみていきます。
重要キーワードはこちら。
☆錯覚:乳児が母親に依存した状態
★原初的没頭:乳児も母親も一体感を感じて分離できない状態
☆ホールディング:乳児のお世話~スキンシップまでの関わり全般
★ほどよい母親:原初的没頭から覚めてほどほどのお世話をする状態
★移行対象:乳児が不安なときに頼る母親の愛情を感じる物
☆脱錯覚:移行対象に触れて、自分≠母親と気付くこと
理論全般に言えることですが、すべての子どもがきっちりこの通りに発達する訳ではないことは覚えておきましょう。
出産したての一体感は正常な反応であることや、乳児はぬいぐるみや毛布などの移行対象を扱って母子分離の練習をしていることなどをイメージできれば良し。
勉強お疲れ様でした!
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