こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
カウンセリングの技法はいくつかありますが、今回は3大精神療法の1つ、来談者(クライエント)中心療法についてざっくり解説していきます。
✓来談者中心療法についてよく分からない
✓話を聴くだけで効果があるの?
✓普通の相談とどう違うの?
来談者中心療法は心理士を目指す人には必須の基礎知識なので、本記事でも解説する3つの姿勢をしっかりマスターしましょう。
そうでない人にとっても、専門家のスタンスを知れたり、普段の相談に少し活かせる姿勢を知ることができるため、人の相談の聴き方の勉強になりますよ。
・来談者中心療法について聞いたことがある人
・日常的に相談をよく受ける人
・カウンセラーの基本態度に興味がある人
※心理系大学院受験生は必須!
来談者(クライエント)中心療法(client centered therapy)とは

来談者中心療法はクライエント中心療法とも言い、C. R. ロジャースが提唱した、非指示的な心理療法です。
これ以前にあった精神分析や(認知)行動療法に対して、人の主体性を重視していないと異議を唱えて生まれた背景があります。

精神分析、行動療法、来談者中心療法は今でいう3大心理療法で、カウンセラーの立場の有名どころです
3大心理療法のうちの1つで、精神分析や行動療法の後に生まれました。
来談者中心療法の考え方には、①自己概念と②経験の2つがあり、人は誰もが①と②を一致させて自己実現する力があるとします。

人の前向きさを信じて、カウンセリングでアシストするイメージかな
①自己概念…人が抱える理想的な自己像(理想自己)
②経験…人が現実に体験する自己像(現実自己)

たとえば、年収1千万のエリートサラリーマンという理想自己をもち、現実の経験的にはニートな人がいたとして、理想と現実が食い違うほど本人の中での違和感や苦しさは大きくなります。

「こんな現実、俺じゃない」
来談者中心療法の問題の捉え方は、自己概念と経験が重ならない=不一致な状態を不適応と考えます。
そして、自己概念と経験が重なるほど自己一致と言って適応的と考えます。
心の悩みや問題を抱える人にも自己治癒力があるとし、カウンセラーとの適切な関係性や環境を整えていくことで、自己一致を目指すことが目的です。

人を前向きに捉えるんだね
ちなみによく「傾聴」という単語だけがひとり歩きし、「とにかく聴き役になればいいんでしょ?」と考える人もいますが、もちろん傾聴はただ聴くだけではありません。
相手の悩みや問題をできる限り聴くために、こちらから問いかけて深く話を聴くことが必要です。

ただの受け身ではありませんので初学者は注意
3つの基本姿勢

来談者中心療法では主に3つの基本的な態度を重要視します。

座学では3つ全部できるようにと言うけれど実際は無理に等しい()
C. R. ロジャースの考えとしては6つありますが、有名なのは3つです。
①共感的理解
②無条件の肯定的配慮
③自己一致(純粋性)
座学として知る分には「ふーん。簡単そうじゃん」と一見思える基本姿勢ですが、心理士を目指す人や日常で相談を良く受ける人は是非チャレンジしてみてください。
来談者中心療法は心の悩みや問題を解消するというより、自己一致を目指して、その人が十分に機能した人になれることを目指します。

機能=自分で問題解決できるような
基本姿勢で人と接するという点だけでも、日常の相談とは異なると言えます。
①共感的理解

共感的理解は、クライエントが個人的に感じる心の世界を、あたかも自分自身のことであるかのように感じ取ることです。

「分かる~」ってときは大抵共感できてないと思う方がいい
相手の困り感に「可哀そうだなぁ」と同情するのも、「わたしもいじめられたから気持ち分かるよ」と自分の経験と重ねて同調することも共感とは違います。
共感の場合、聴き手(カウンセラー側)と話し手(クライエント側)の心の世界にはきちんと線引きがあるうえで、「この人のこの体験は、こんな風に感じるなぁ…」と共有することを目指します(共感は奥深すぎるテーマなので割愛)。
共感的に感じ取ったことを、カウンセラーはクライエントに伝え返すことで(感情の反映)、クライエントの自己理解を促します。

共感するためには本当に真剣に人の話を聴くことになるよ
②無条件の肯定的配慮

無条件の肯定的配慮は、クライエントのどんな一面にも肯定的で、積極的に関心を向けることです。
✓このクライエント何となく嫌だな
✓この手の話は受けつけないんだけどな
✓この人問題ばかり起こすからちょっとどうかと思う
✓何でも反発するからムカつく など
人に寄せる感情はいろいろ抱きますが、カウンセリングではクライエントに否定的な態度はとらず、「今ここ」でのクライエントのありのままを受容する姿勢が大切になります。

犯罪行為や反社会的態度そのものを良しとするわけではなくて、どんなことも認める感覚かな
人の悩みや問題はキレイなものというより、人になかなか話せない黒い感情や行いも多いです。
目の前のカウンセラーがクライエントのありのままを受け入れることで、「何を話してもいいんだ」と感じられることを目指すための姿勢です。

ヨイショではないぞ
③自己一致(純粋性)

自己一致は、カウンセラー自身が自分の感情や状態に素直であることを指し、純粋性や真実性などの用語でも言われます。

ありのーままのー♪

(古い)
たとえば、人から相談を聴くと、自分の体験を思い出したり、その人に対して嫌悪感を感じたりなど嫌な気持ちを感じることがあります。
その時嫌に感じたことを黙って付き合っていくともやもやが残り、それは自己一致とは言い難いです。

嫌に思いながら相談聴き続けると何となくぎこちなくなるね
必要があればカウンセラーはクライエントや話に対して感じたことを伝えることもあり、自己一致しているカウンセラーと対面することでクライエントも自分に正直になろうと思えることを目指します。

3つの基本姿勢大事だけどこれ全部できてる人どれだけいるのか…
日常での相談以上に、来談者中心療法では丁寧な姿勢や相手を尊重する態度などをとり、私情を挟むこともありません。

「分かるよ私もね~」って話をすり替えるのはまずなし!
来談者中心療法の効果と適用

「人の自己治癒力を信じて話を聴くだけで治療効果が得られるの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
日常で人に話を聴いてもらうことで「すっきりした!」と言うカタルシス効果が得られますが、カウンセリングでもカタルシス効果は確かにあります。
もちろんそれだけではなく、相談者の自己概念と経験の一致を増やすことに焦点を当てるため、自分の感情に素直になりやすくなったり、自分の思いに気づいて認められるようになる効果が期待できます。
✓自分自身の問題を自覚できるようになる(洞察)
✓今の自分を受け入れられるようになる(受容)
✓自発的により良くなろうと思える(自己実現)

自分自身と向き合いたい人や丁寧に話を聴いて欲しい人には合っているかも
一方で、来談者中心療法は非指示的なため、「カウンセリングを『受け』たい」という受け身な人や、積極的な意見を聞きたい人にとっては向いていないかもしません。
おわりに:関係性が人に与える影響も大きい

来談者中心療法は、精神分析や行動療法などを批判する形で生まれた第3の非指示的心理療法ですが、指示的立場や権威性を重視する立場などからの批判もまたあります。

でも心の学問に正解はないよね
来談者中心療法の基本姿勢は、どんな立場のカウンセリングにも通じうる大切な要素です。
②無条件の肯定的配慮
③自己一致(純粋性)
どの姿勢も習得することが大切ですがかなり難しいことでもあるので、これらを忘れずに成そうとする気持ちを大切にしましょう。
真剣に聴いてもらえることで得られるカタルシス効果の他に、目の前のカウンセラーをある種の目標に自分自身を見つめ直せるようになれます。
日常の相談で3つの基本態度を取ることは正直難しいですが、とにかく人の話を最後まで聴くことはできるはずです。

それだけでも十分効果はあるよ
心理士初心者はもちろん、日常で相談を聴くときも、同情したり話をすり替えるのではなく、まずはとにかく聴くことに徹してみてくださいね。
おすすめ書籍
C. R. ロジャースの考え方は一般的にも有名な方で、カウンセリングについてや共感などの技法についてなどの書籍も多いので一部紹介します。

クライエント中心療法についてざっくりと知りたい、手元に置きたいという人はこちら。
C. R. ロジャースの論文内容を簡潔にまとめており、クライエント中心療法の入門書に最適です。
こちらは見たことある人も多いかもしれませんが、一般~専門家まで読める、共感についての参考書籍です。
そこそこ分厚いですが固すぎず読みやすく、一般的に浅く使う「共感」とはどういうことなのか、考えさせられます。
相談役になりやすい人は是非一度読んでみてください。

相談業務は主観だけでやると危険なので、日々知見と価値観を広げよう
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