こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
今回は、心理職の仕事の1つである心理検査の中でも、ロールシャッハテスト(以下、時々ロ・テ)について概要やポイントをざっくり解説します。
片口法中心です
圧倒的に心理のたまご向け回
✓ロールシャッハテストがよくわからない
✓実施の大まかな流れを確認したい
✓代表的な記号の意味を知りたい など
心理職を目指すにあたって、資格試験~現場(主に医療)までロ・テの知識は必須です。
心理系大学院受験生や、資格試験を控える心理のたまごの受験対策~新米心理士の復習までご活用ください。
こんな人におすすめ!
・ロールシャッハテストを勉強したい人
・心理検査に興味がある人
・特徴や見方が全く分からない人
※心理系大学院・臨床心理士・公認心理師の受験生は是非
※ロールシャッハテストを受けたい人は見ない方が良いかと!
受検の可能性がある人は、結果が歪む可能性があるので画像検索はお控えください
ロールシャッハテストとは
ロールシャッハテストとは、スイスの精神科医H. ロールシャッハによって開発された人格検査(投影法)です。
左右対称のインクの染みでできた10枚の図版を見て、どこに・何を・どんな風に見えるかを自由に反応してもらい、その人のパーソナリティや物の見方、対人関係での特徴、知的側面などを評価します。
特に正解とかないよ!自由に!
基本的に自由に反応してもらうため検査時間もマチマチ(1時間前後が目安?)。
図版は、無彩色(白黒)と彩色でそれぞれ5枚ずつ。
下記はこぼれ話。
▼H. ロールシャッハの背景
・画家教師と旧家出身の間で出生
・子ども時代にインクで染みを作る遊びが流行る
・医学生時代に「自分の脳が解剖される」夢を見る
・インクの染みを見せて子どもの想像力を見る実験をする
・どうやら夢から着想を得て『反応幻覚と類縁現象について』という学位論文を書く
・ロ・テの元と言われる『精神診断学(1921)』を約3年で書く
・その翌年37歳で死去
→研究未完のまま本家が死去したため、いろんな人が研究していくつかの解釈法が生まれた
背景は覚えなくてもいいですが、この夢はH.ロールシャッハが重要視する運動反応(M)に発展したと言われており有名だったり。
ロ・テではどのように知覚するか(とりわけ運動反応)を重要視
「何を見るか」より「如何に見るか」
ロールシャッハテストの基本構造
ロールシャッハテストはいろんな研究者によって複数の学派が生まれており、実施法は微妙に、分析・解釈はかなり異なっています。
✓Klopfer法
✓Beck法
✓Piotrowski法
✓Hertz法
✓Rapaport法
✓包括システム(Exner法)
包括システムが世界的に根強く、日本ではKlopfer法をベースにした片口法(by片口安史)もメジャー。
全学派の中身を覚える必要はないと思いますが、下記の基本構造はきちんと把握しておきましょう。
教示(instruction)
教示では、被検者の特徴を反映させるためにシンプルな説明をします。
「これからあなたに10枚のカードを見せます。それを見て何に見えるか、どのように見えるかおっしゃってください」
細かな教示は学派によりますが、余計なことは言わず同じ教示を言えるように覚えるのが◎
自由反応段階(performance proper)
自由反応段階とは、10枚のカードを1枚ずつ見て自由に反応してもらう段階です。
被検者の自由な反応を重視するため、誘導的な声掛けや、被検者の反応を抑制するようなことは言わないのが鉄則。
答えありますか?
何個言えばいい?
カードの向き変えても?
ご自由に!
また、被検者が言った通りに反応を記録するのも大切です(勝手に言い換えて反応を歪めないように)。
質問段階(inquiry)
質問段階とは、被検者の反応(知覚)をより理解していくためさらに質問をする段階です。
「10枚のカードを見て色々答えていただきましたが、もう1度見ていただいて、それがこのカードの何処に見えたのかや、どのような特徴からそう見えたのか教えてください」
質問といっても自由反応段階同様で、誘導的・指示的などの聞き方はNG!
「他に何かありますか?」
「~についてもう少し特徴を教えてください」etc.
質問は常にオープンクエスチョンで
質問段階で十分に聞けていないと、反応のスコアリングができない=分析ができないので、丁寧に聞くようにしましょう!
ロ・テの実施でその心理職がどれだけ話聴けるのかわかるって教授が言ってた
限界吟味段階(testing the limits)
限界吟味段階とは、自由反応段階・質問段階を終えて、疑問が残る場合に直接的な聞き方で確認をする段階です。
・同じ見方ばかりな場合に「~な見方だとどう?」
・色の言及がない場合に「色について?」
・平凡な反応がない場合に「~は…に見える?」etc.
こういう見方はできますか?って確認
ただし、限界吟味段階は学派によってあったりなかったりします。
これまでのスタンスと違って限界吟味段階は侵襲性が高いため、実施は分析上どうしても必要と思える場合に限るのが無難かと。
分析・解釈について
ロールシャッハテストの分析・解釈は、基本的には得られた反応を1つずつスコアリング→数値化して行います。
※本記事では片口法でゆる解説します(包括の超ざっくりまとめはこちら)
スコアリングのポイントがこちら。
反応領域 | カードの何処に見たか | W(全体反応) D(部分反応) Dd(特殊部分反応) S(空白反応)etc. |
反応決定因 | どんな特徴から見たか | F(形態反応) M(運動反応) C(色彩反応) c/K(陰影・濃淡反応)etc. |
形態水準 | 公共性や現実性をもって見たか | +、±、∓、-で評価 |
反応内容 | 何を見たか | H(人間反応) A(動物反応) At(解剖反応)etc. |
平凡反応(P反応) | 一般的に見られやすい反応か | マニュアル参照 |
ぷすぷす…
右側のアルファベット(スコアリング)はまだまだ沢山ありますが、詳細は書ききれないので割愛(スコアリングのざっくり追記記事書くかも)。
初学者はまず左側と中央を押さえましょう(何を聞けばいいかわかるため、実施しやすくなるかと)。
スコアリングはマニュアル見ながらでOK!
\ 片口法なら要ります /
スコアリングしたら、数値としてまとめ、数値から評価していきます(形式分析)。
形式分析で代表的な指標例はこんな感じ。
R (総反応数) | 一般的には20~45個(実際は25個程度が平均かと)。 多いと過緊張や野心の高さ、躁的、少ないと防衛的、落ち込み気味 etc… |
R1T (初発反応時間) | 刺激を受けてから反応するまでの処理速度。※Exner法には時間の概念ナシ |
把握型 | W、D、Dd、Sの割合を見る。 全体をまとめ上げるのが得意、部分的・具体的に見るのが得意などの傾向を見る。 |
W:M | 要求水準の指標。通常2:1か3:1。W<Mは不満が示唆されがち。 |
M:ΣC | 体験型の指標。M優位だと内向型、C優位だと外拡型、同等だと両向型。 |
FM+m:Fc+c+C’ | 上記(M:ΣC)と同じ向きなら体験型の信頼度が増す。 上記と異なると内的な葛藤の存在が示唆される。 |
Ⅷ+Ⅸ+Ⅹ/R | 情緒刺激への感受性の指標。M<ΣCなら30%以上、逆なら30%以下が普通。 |
FC:CF+C | 感情表出が統制されているかの指標。成人ならFC>CF+Cが望ましい。 |
FC+CF+C:Fc+c+C’ | 感情や気分などの指標。一般は2:1。 |
M:FM | 自我や欲求のコントロールの指標。一般には2:1程度。 |
ΣF+% | 現実検討力の指標。一般には70%以上欲しい。 |
H% | 対人希求性の指標。20~30%が目安。 |
A% | 常識性や紋切り型の指標。通常は25~60%。 |
At% | 身体への関心や不安の指標。10%以下が一般的。 |
平凡反応(P) | 社会性や協調性の指標。5個以上が望ましい。 |
初見だと呪文すぎる
スコアリングも分析・解釈も各学派の本を見ながら慎重に行えれば十分かと思いますが、各スコアが何の指標なのかは覚えておくと、所見も試験もスムーズになるかと思います。
形式分析から大まかな特徴を読み取る問題は、臨床心理士試験でも出題歴ありね
また、片口法の場合は各カードの特性やカード間の流れ、形態水準の移り変わりなどを考慮した継起分析も行います。
カードNo. | 色 | 特徴 |
Ⅰ | 無彩色(白黒) | 不安や緊張が現れやすい。 |
Ⅱ | 彩色 | 初の彩色で色彩ショックが生じやすい。 |
Ⅲ | 彩色 | 彩色カードだがまとまりが良く、色への言及がしやすい。 人と運動の反応が出やすい。 |
Ⅳ | 無彩色(白黒) | 濃淡が強く権威的、威圧的な印象を受けやすい。 陰影ショックが生じやすい。父親カード。 |
Ⅴ | 無彩色(白黒) | もっとも反応しやすい。 |
Ⅵ | 無彩色(白黒) | 性ショックが生じやすい。 |
Ⅶ | 無彩色(白黒) | 柔らかい陰影で、女性的、退行的な反応が生じやすい。 母親カード。 |
Ⅷ | 多彩色 | 初の多彩色。情緒統制の程度が表現されやすい。 |
Ⅸ | 多彩色 | 反応拒否や遅延が多い。 |
Ⅹ | 多彩色 | 全体的にまとめて見るのが難しく、部分で見やすい。 |
本記事での記載は控えますが、心理のたまごはカードごとの平凡反応(P反応)も押えておきましょう。
座学の暗記より実践重ねる方が覚えられるぞ!
継起分析をすることで、反応に投影されている情緒面や対人での関わり方、刺激に対する対処法、葛藤の扱い方、困ったときの立ち直り方、防衛機制の在り方などなど…数値からでは読み取れないことも分析していきます。
包括システムについて
包括システムは、統計処理をした膨大な実証データから客観的な評価を目指す分析システムです。
他の学派と違ってコーディング(≒スコアリング)がシンプルかつ非常に細かく決まっており、量的分析がしやすい(整理しやすい)のが特徴的。
コーディングを元に構造一覧表という量的分析の元を作成したら「この場合はこの順で解釈しよう」という鍵変数が決まっているため、それに沿って評価していきます。
細かなデータに沿う分、初学者が取り組みやすいかも
片口法のが職人芸っぽいかも?
実施については、自由反応段階で総反応数が13個以下なら励ましなどでもう一度反応してもらったり、計測しないといった点も特徴的です。
おわりに:ロールシャッハテストは座学より実践あるのみ!
ロールシャッハテストとは、左右対称にできたインクの染みが描かれた10枚のカードを見て、何に見えるか・どんな風に見えるか反応してもらうことでパーソナリティ等を評価する人格検査です。
おおまかな基本構造は下記の通り。
解釈については複数の学派がありますが、ワールドスタンダードは包括システム、国内では片口法も有名なので、どちらかは抑えたいところ。
ロールシャッハテストの分析・解釈は決して簡単にはいかないので、勉強・実践する際は、各学派の本は必ず用意しましょう!
\ 片口法なら買うべし /
\ 包括の有益書物 /
ロールシャッハテストは他にも参考書はありますが、どうせ読み込むなら上記のように本家の方がおすすめです(情報量は十分すぎるくらいあります!)。
座学オンリーで学ぶにはイメージしづらいと思うので、大学・大学院などで実習の機会があれば積極的に扱うのがおすすめ。
将来的に病院やクリニックなどの医療機関で心理職をするなら、ロールシャッハテストは必須スキルです。
医療分野で活動したい心理のたまごはしっかり勉強しましょう!
難しいけどめちゃ楽しいよ!勉強&実践ファイト!
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