こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
今回は心理士のたまごに向けてカーンバーグの病態水準についてざっくり解説します。
聞いたことある?
今の現場では積極的に使われていませんが、心理士としてクライエントの心の状態がどの程度深刻なのかを見立てるにはとても参考になる考えです。
心理系大学院の院試や臨床心理士・公認心理師の資格試験で問われる可能性もあるので、病態水準の内容はしっかり押さえておきましょう!
こんな人におすすめ!
・病態水準について知りたい人
・精神分析に関心がある人
・心理の資格試験受験生
※心理系大学院受験生は必須
病態水準(level of psychopathology)とは
病態水準とは、精神科医のO. F. カーンバーグが精神分析理論に基づいて分類した精神症状の重篤さです。
O. F. カーンバーグはS. フロイトの精神分析学派で、後にA. フロイトの自我心理学+クライン派の対象関係論を重視した
病態水準は①現実検討力、②同一性の統制度、③防衛操作の3点を基準に、精神症状が比較的重篤ではない神経症レベル、重篤な精神病レベル、これらの中間に位置する境界例レベル(境界性人格構造)に分類できます。
はにゃ??
①現実検討力
…現実を正しく認識したり、自分と他人の境界線が区別できたりする力。低いと幻覚・妄想などが生じやすい。
②同一性の統制度
…自分の記憶や考え、認識など自分である感覚がまとまり、一貫性を保てているか。保てていないと人格が解体(分裂)しやすい。
③防衛操作
…不快や不満に対して適切な防衛機制(心の守り方)ができるか。できないと原始的防衛機制(未熟な心の守り方)を使いやすい。
表にするとこんな感じ!
3つのレベルは not 病名、but 精神症状の重篤さの分類
ロールシャッハの形態水準の参考みたい
3つのレベルについてもう少しみていきましょう。
神経症レベル
神経症レベルは、精神症状の深刻さが比較的重くない状態を指します。
軽い訳ではないよ!神経症圏を軽んじるみたいで失礼になるよね
一過性のものから慢性的な不安やうつなどいろいろな症状は訴えられますが、現実検討力や同一性は保たれやすいので表面的には疎通よく、適応的なことが多いです。
防衛機制は抑圧や知性化など成熟したものが多く、不快や不満に対しても適切に機能しやすいといえます。
不安障害や身体表現性障害、パーソナリティ障害(C群)、解離性障害などが代表的。
代表例であって、これ以降も「○○レベル=××障害」と決めつけないように!
神経症レベルは、悪口に対して「多分自分のことじゃないけどもしかしたら自分のこと悪く言われてるのかも…」と気にしすぎちゃうイメージです。
神経質
\ さらに理解を深めよう /
境界例レベル
境界例レベルは、神経症レベルと精神病レベルの中間のイメージで、一見神経症レベルに見えて精神病レベルの症状も見られる不安定な状態を指します。
昔は精神病かそうじゃないか(神経症か)くらいで考えられていたので、カーンバーグの提唱概念の中で境界例は特に注目を浴びた
先人も0か100か論者だったんだな
境界例レベルだと、現実検討力は比較的保たれていることが多いものの、心的な負担が増すと一時的に現実検討力が低下してしまうことも。
同一性については、自分と他人の境界線があいまいなことが多く、対人関係での困り感を訴えることが多いといえます。
防衛機制のレベルも良くなく、分裂(スプリッティング)などの原始的防衛機制(未熟な心の守り方)が目立ちます。
パーソナリティ障害(B群:特に境界性パーソナリティ障害)が代表的。
境界例レベルだと、悪口に対して「どうせ自分のことを悪く言ってるに違いないんだ」と決めつけにかかるイメージです。
被害的な思い込みィ
\ 原始的防衛機制の例あり /
精神病レベル
精神病レベルは、精神症状の深刻さが比較的重度な状態を指します。
現実検討力は低下して、現実感を失い幻覚や妄想といった症状が見られがちに。
同一性も自分と他人の区別がつかず「自分の考えが見透かされている?」「操られている」などさせられ体験を感じやすくなります。
夢うつつ、自他の境界が崩れちゃうんだ…
人格レベルが下がってしまうため、防衛機制は分裂のほか、原始的投影・理想化、脱価値化、否認などの原始的防衛機制が多く目立ちます。
名称 | 英語 | 特徴 |
分裂 | splitting | 対象に対して良いイメージと悪いイメージを二分化して矛盾を避ける。悪いイメージを他人に投影しがち(向けがち)。 |
原始的投影 | primitive projection | 自分の内面を、他人があたかも持っているかのように感じる。「世間は敵だらけだ」とか「私を守ってくれるに違いない」。自分の内面を映しているだけあって、ポジティブな投影は相手の些細な言動で簡単に壊れやすい(「良い人だったのに裏切られた!」とか)。 |
原始的理想化 | primitive idealization | 分裂した良いイメージを過度に理想化して、一方の悪いイメージから自分を守ろうとする。脱価値化とセット。 |
脱価値化 | valueless | 自他の価値をあからさまに下げて傷つけてしまうこと。こきおろし。 |
否認 | denial | 受け入れがたい事実を否定。思いのままに否認するため矛盾もしやすい。否認してばかりだと現実を受け入れられず、不適切な考えや偏見を強めやすい。 |
境界例レベル(BPD)にも多く見られるよ!(見づらくてすみません)
症状としては統合失調症やパーソナリティ障害(A群)が代表的。
精神病レベルだと、悪口に対して判断ができず「自分が悪く言われている」幻聴が聞こえてしまうイメージです。
現実が歪むむむ
各レベルの違い
上記で病態水準の分類を表にして大まかに示しましたが、神経症レベルと境界例レベル、境界例レベルと精神病レベルの違いを改めて補足。
神経症レベルと境界例レベルでは、特に防衛操作に違いがあります。
・神経症レベルは抑圧や知性化など成熟した防衛機制で適応しやすい
・境界例レベルは分裂などの(未熟な)原始的防衛機制で不適応を起こしやすい
境界例レベルと精神病レベルでは、特に現実検討力に違いがあります。
・境界例レベルの現実検討力は比較的保たれていて、ストレスなど負担が増すと一時的に悪化しやすい
・精神病レベルの現実検討力は失われて、幻覚・妄想が見られたり自分に関する情報(記憶や名前、対人関係など)が分からくなったりする
境界例は自我がもろくて精神的に未熟で不安定気味なんだね…
病態水準は判断すべき?
今回解説しているカーンバーグの病態水準は、あくまで精神症状の深刻さを大まかに分けているのであって病名ではありません。
また、分類の3点(①現実検討力、②同一性の統制度、③防衛操作)を正確に見ることが難しいため、病態水準は積極的には使われていません。
そういう意味では病態水準を判断しない人もいますが、病態水準を判断することは心理士としての見立てにも役立ち、心理的な支援のアプローチを考える参考にもなります。
個人的には考えたい派
・抑圧的な神経症圏、現実検討力は保たれているがストレス耐性が低い境界例には心理療法を提案してみる
・現実検討力がなくて陽性症状(幻覚・妄想など)がある精神病圏には心理療法より薬物療法や環境調整の方が期待できそう など
心理士は診断しませんが、クライエントの心の状態を見立てる力は必須です。
病態水準の判断は必須ではないと思いますが、特に見立てずに何でも「ストレスですね」と言うくらいなら考える価値は大ありかと。
「この人の現実検討力はどうかな?」
「自分と他人の境界線は引けてる?引きすぎ?」
「どういう防衛をしやすいかな?」
自分なりに考えてみると見立ての参考にもなるので、心の中でおすすめします。
心理士ならいろんな側面から人を見よう!
なお、病態水準は分類したとしても揺れ動く可能性は十分にあるため、決めつけないように気をつけましょう(こだわり過ぎると支援につながりにくいかと…)。
境界例レベルの現実検討力が下がれば、一時的に精神病圏になるとか(強迫性障害やうつ病は特に揺れ動きやすい印象)。
ASDのスペクトラムなイメージが◎
\ 心は良くも悪くも揺れる /
おわりに:心の状態を測る軸をもとう
O. F. カーンバーグが提唱した病態水準とは、精神症状の深刻さの分類であって診断ではありません。
病態水準の3分類は以下の通り。
・神経症レベル…精神症状が比較的重くない
・境界例レベル…精神症状が不安定(挟間)
・精神病レベル…精神症状が比較的重い
分類するための3つの基準はざっくりこんな感じ。
①現実検討力…現実と空想の区別がつくか
②同一性の統制度…自分である感覚が保てているか
③防衛操作…困ったときの対応が適切か
ざっくり!
病態水準を正確に判断することは難しく今では積極的に使われていませんが、心理士としてクライエントの心の状態を測るにはとても役立つメリットがあります。
精神症状を正確に判断することはどんな方法でも難しいですが、心理職としては心の状態を見立ててアプローチする力は必須です。
見立てる際は、神経症圏・境界例(人格障害圏)・精神病圏(統合失調症圏)・感情障害圏(うつ病など)で分類したり、発達障害は別で見たりもします。
分類に囚われ過ぎるなよ
アセスメントの材料は多くて悪いことはないので、心の中で病態水準を考えてみると臨床力が上がるかもしれません。
自分なりに軸をもつと見立てやすくなるよ
診断基準として理解を深めたい場合は、DSM-5がコンパクトで見やすいです。
\ 試験・現場でも活躍 /
精神疾患の基準は知っておいて損なし(むしろ知らないと症状について聞けないことも…!)。
各試験に役立つのはもちろん、何より現場で必要な知識なので、早めに理解しておきましょう。
用語多めで固いテーマだったけど最後までお疲れさん!
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