こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
今回は学習心理学の試行錯誤と洞察の違いについて。
✓困ったときはあれこれ試して時間がかかるタイプ
✓困ってもピーンと閃くタイプ
日々、人が困り事にぶつかる度にどんな問題解決を図るかについてざっくり解説します。
用語の解説記事になるので、特に心理系大学院進学希望者はそれぞれ説明できるように覚えておきましょう。
そうでない人は、学習や問題解決のパターンが複数あることを知ってもらえたらと思います。
こんな人におすすめ!
・試行錯誤と洞察の違いが分からない人
・学習心理学や行動心理学に興味がある人
・困ったらどうすればいいか分からない人
※心理系大学院進学希望者はチェック推奨
試行錯誤とは
試行錯誤(trial-and-error)とは、問題解決の際にいろいろな方法を試していく中で偶然問題解決に至る方法で、問題解決までの時間は回を重ねるごとに短縮されます。
試行錯誤ではE. L. ソーンダークのネコの問題箱が有名です。
▼ネコの問題箱
【実験してみた】「ヒモを引くと扉が開いて、エサの置いてある外に出られる」という仕掛けのある問題箱に空腹のネコを入れてどうなるか
まーた可哀そうなことして…
ネコは箱の外に出ようと、箱の外のエサを食べようと思って箱内でうろついたりひっかいたりしても成果を得られません。
ネコ(どないせいっちゅうねーん!)
しかし、いろいろと試してみるうちに偶然ヒモを引いて扉を開けることに成功します。
成功してからはだんだんと「ヒモを引く=扉が開く」ことに気づき、箱の外に出るまでの時間は短くなっていきます。
行動心理学の視点で言えば、「ヒモを引く」刺激(S)と「扉が開く」反応(R)のつながりが強化されて、反応までの時間が短くなっていると説明◎(S-R連合)
試行錯誤で学習したってことね
これは、同じくソーンダークによる効果の法則でも説明可能です。
効果の法則とは、何かしらの反応の後に快適さが得られる場合、その反応は生じやすくなり、反応の後に不快さを感じる場合はその反応が生じにくくなる法則です。
▼ネコの問題箱なら…
・ヒモを引いた→扉が開いて箱の外に出られるしエサも食べられる!(快適)
⇒もっとヒモを引こう(反応↑)
・箱に体当たり→箱の外には出られないしエサも食べられない…痛い(不快)
⇒体当たりしても意味ない…やめとこう(反応↓)
効果の法則を踏まえると、試行錯誤は快適な・うまくいくことは増えて、不快な・うまくいかないことは生じにくくなるため、問題解決の時間が短縮されていくということです。
無駄は減らして気持ちよくなりたい
ちなみに、効果の法則に焦点を当てた良書がこちら。
\ ふつーに良書 /
専門用語も出てはきますが、一般の方でも読み進められる程度に表現を変えてあるので、どなたでも読めます。
子育ての悩みや療育的な視点が多いので、子どものことで悩む人は気軽に読んでみてください。
脱線~
試行錯誤・効果の法則の反応(R)あっての刺激(S)のつながりは、スキナーのオペラント条件づけの元になっています。
人の行動心理に興味がある人は下記記事も参考にどうぞ。
\ 行動心理学の基本 /
洞察とは
洞察(insight)とは、問題となる場面の全体像を把握して一気に解決に至る方法で、ゲシュタルト心理学者のW. ケーラーが提唱しました。
ピキーーーン
W. ケーラーはチンパンジーを使った実験で有名。
▼チンパンジーの洞察実験
天井からはバナナが吊るされており、周りには箱と棒が置いてある部屋にチンパンジーを閉じ込めてみたところ…
チンパンジーは箱に乗って棒でバナナをつつき落として食べた!
すげー------!
これは、吊るされたバナナ、箱、棒など要素ごとに認識していると問題解決はできず、「箱に乗って棒でを持てばバナナに届くだろう」と全体的な認識をすることで問題解決ができると考えます。
バナナしか見てなければ一生届かぬ
コナン君「そうか!謎は全て解けた!」←こんな気分
困り事を解決するには、試行錯誤する以外にも方法はあるということですね。
ちなみに、洞察という言葉は精神分析の考えでも登場しています。
抑圧してきた感情などを話して少しずつ自分で受け止めていく中で、点と点がつながったかのように「あぁ、自分はこんな気持ちだったんだ」と気付けるのも、断片的な自己理解から全体的に理解できた(洞察できた)というイメージ。
【院試に向けて】試行錯誤と洞察の違い
試行錯誤と洞察はどちらも問題解決の方法ですが、用語としての違いは以下の通り。
試行錯誤 | 洞察 | |
提唱者 | E. L. ソーンダーク | W. ケーラー |
プロセス | 徐々に問題解決 | 一気に問題解決 |
代表的な実験 | ネコの問題箱 | チンパンジーの実験 |
大きな違いは、問題解決するまでにかかる時間の長短や物事の捉え方です。
とにかく行動派と知的に解決派なイメージ
心理系大学院への進学希望者は違いを覚えておきましょう(臨床心理士試験でも出題アリ)。
ちなみに、他にも問題解決の方法としてヒューリスティックスとアルゴリズムという考え方もあるので、知らない人はこちらも要チェック。
おわりに:学び方は1つじゃない
困ったときの問題解決のパターンとして、心理学では試行錯誤と洞察の2パターンが代表的です。
✓試行錯誤…あれこれ試して問題解決に至る
✓洞察…全体を見て一気に問題解決
試行錯誤では、問題を解決するためにいろいろ試してみたり、何度も練習を繰り返して失敗や成功を体験してクリアーできるようになったりします。
対して洞察は、試行回数は特になく、自分の置かれた状況や周りを見据えて見通しを立てることでクリアーしていきます。
洞察の方がクレバーな問題解決?
どちらが優れているという問題ではありません。
試行錯誤して失敗から学ぶ体験も大切ですし、全体像を捉えて解決方法に気づける閃きがあれば、困り事を時短で解決することもできるはずです。
失敗体験も洞察の一要素
ただ、洞察の力が身につけば、困り事をなるべく早く解決できるかもしれません。
洞察するにはいろいろと体験やインプットをして引き出しを作ったり、自分で自分のことを振り返り整理する作業が大切でしょう。
また、自分に経験も知識もなく初めて向き合う課題であれば、いきなりうまくいくとは思わずにとにかくチャレンジしてみる方が(試行錯誤)、あれこれ考えるより意外と解決は早いかもしれません。
使い分けられるといいよね
失敗したくない、間違いたくないと考える人は多いですが、試行錯誤も問題解決の1つの方法なので困ったらあれこれ試してみましょう。
そんで洞察の糧になるといいよな
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