こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
子どもの学習遅れや大人の職場適応で困りやすい特徴として、知的障害があります。
知的障害の本人の困り感は少なく、親や周りが「大丈夫かな?」と心配することが多い障害です。
✓職場に知的障害の人がいるけどよく分からない…
✓知的障害と診断されたけど、どんな公的支援があるか知らない など
周りに知的障害やその疑いのある人がいて、対応に困る人は本記事を参考にしてください。
今回は、知的障害の種類や公的な支援など、知的障害の本人及び周りが少しでも過ごしやすくなれる情報を提供します。
知っているのと知らないのでは、かなりの差が出るので関係者は必ず見てくださいね!
発達障害の概要記事はこちらです。
・知的障害について知りたい人
・具体的な支援について知りたい人
・小さい子どものいるパパママ(予備知識として)
・教育・保育・福祉関連の仕事に従事している人
※心理系大学院受験生は必須!
知的障害(Intellectual Disorder)とは
知的障害(Intellectual Disorder)は、主に2つの特徴をもっています。
②年齢に応じた適応行動が困難な状態
知的能力が低いだけじゃないんだね
精神遅滞(MR:Mental Retardation)という言葉もありますが、基本的には同じ症状を指しています。
精神遅滞の方が医学的な用語ですが、字面が嫌らしいので知的障害の方が広まりつつありますね。
精神遅滞の前は『精神薄弱』って用語だったよ
即改名ィ!
知的障害は発達過程で発症がわかる障害で、基本的には18歳未満で診断されます。
知的障害でない18歳以降の能力全般の低下≒認知症
病因として、先天性の代謝異常や染色体異常など、脳の機能障害が原因として考えられているので、ほかの発達障害と同様に親の養育のせいではありません。
後述しますが、知的障害の程度の差は大きく、重症な知的障害だと幼いうちから傾向が見られますよ。
①知的能力について
全般的な知的能力の測定は、田中ビネー式知能検査やウェクスラー式知能検査などIQ測定のできる知能検査で行えます。
精神科・心療内科の病院・クリニックや、療育センターなど心理士のいるところで実施可能です。
テスター(心理検査や知能検査の実施)も心理士の仕事だよ
知能検査で全般的なIQが70未満だと、知的障害の目安になります。
知的障害なのに漢字難しすぎ!覚えなくていいけど知ってるとかっこよくね?
知能検査のIQを使った現在の判定目安は4段階あります。
② IQ49~35…中等度
③ IQ34~20…重度
④ IQ20未満…最重度
多くの知能検査の平均はIQ=100がど真ん中で、大きく見積もってもIQ=80くらいまでが平均域です。
なので、IQ70未満だと平均的な能力を下回っていると考えられます。
①知的能力の低下だけでは断定できないからあくまで参考ね!
②適応行動について
社会的技能、日常生活技能など、発達段階に応じた日常的な行動ができるかも重要です。
小学生になったけどお話ができないとか、服を着れないとか
通常は発達につれて知的レベルが上がっていき、「自分でやってみよう」、「集団ではこうする方がいいな」など少しずつ自立や適応的な行動がとれるようになります。
知的障害の場合、知的な遅れも影響し、年齢に応じた行動がとれないことが多いです。
周りが10歳でできることが、知的障害だと12歳でできるようになるとか遅れるイメージ
知的能力の4つの程度
知能検査のIQを参考に、知的能力は4つの程度に区分されます。
この区分によって公的支援の度合いも変わってくるため、検査をして本人の全体的なIQを知ることが大切です。
心理士は知能検査きちんととれるように要勉強!
しあんは座学<実践で慣らしたけどな
知的障害の4つの区分はDSM-5を参考に解説していきます。
軽度(IQ69~50)
知的障害としては軽度なため、「ちょっと遅れるかも?」程度で日常生活を送れる人が多いです。
・小さい子だと読み書き、計算、時計の見方などの学習が遅れ気味
・大人だと、読み書き、金銭管理のほか、計画立て、優先順位の苦手さ、考え事、短期記憶の弱さなどがある など
▼社会性について
・コミュニケーションが人より苦手で、言葉の扱いが同年代より未熟
・合図やジェスチャーの読み取りが苦手
・社会的な判断力も低く、人に騙されやすい など
▼実用性について
・食事、着替え、入浴など、日常生活がうまくいかないことが多い
・大人だと、買い物ができない、家事や子育てなどイレギュラーなことへ対応できない など
同年代よりやることが遅れ気味だったり、うまくいかないことが多いけれど、自分でなんとかやっていける程度です。
幼いうちは「発達の誤差?」と思われて、知的障害だと気付かないまま過ごす人も多いですね。
発達障害(ASD)とも似てるね
普通級でも遅れがちながらもやっていける子どももいるので、本人の意思を確認して行きたい学級を選びましょう。
中等度(IQ49~35)
知的障害の区分としては真ん中に位置し、中等度になると同年代と比べて明らかに苦手が目立つ人が多いです。
・周りと比べて明らかに学習習得までに時間がかかる
・大人の場合でも、学習レベルは小学生レベルが多い
▼社会性について
・話し言葉は、同年代と比べてかなり単純な言葉が多い(「ぼくが、やったよ」など短文)
・恋愛関係は思春期ではなく成人後におとずれることが多い
・友人関係は家族など限られやすい
・自己決定できないことが多い
▼実用性について
・大人になれば食事、身支度、排泄など自立可能だが、獲得までにかなりの時間がかかる
・軽作業やマニュアル通りのコミュニケーションなど機械的な仕事は可能だが、計画立てや金銭管理、自由なコミュニケーションは自立してできないことが多い
中等度になると、仕事も私生活も周りからの援助がないと難しいことが多くなります。
子どもの場合、中等度から支援学級の方が過ごしやすい子が多いです。
機械的な活動であれば、何度も教えたり注意することでできるようになるので、周りの根気も必要ですね。
知的障害には周りの手助けが超重要
重度(IQ34~20)
知的障害の区分としてはかなり重く、基本的には補助が必要になってきます。
・文章や数、量、時間、金銭など、概念の理解はほぼできない
▼社会性について
・会話は単語になりやすい
・自分の考えを述べるような説明はまずできず、イエス・ノーなどのコミュニケーションが精いっぱいな人が多い
・家族など限られた関係のみで、身振りは理解しやすい
▼実用性について
・大人になっても食事、身支度、排泄など援助または見てもらうことが必要になる
・自分の意思が分からず、自己決定もできない
・意味も分からず、自分を傷つける行為もたまに見られる
考えて話すなど、同年代が当たり前のように行うことができないレベルです…。
自分の考えを話したり、会話を続けることは難しく、単語と身振りでなんとかやり取りが可能。
日常的に援助者が必要になり、目を離すと自傷行為を行う人もいます。
見ていてつらくなってくるね…
最重度(IQ20以下)
知的障害の区分でもっとも重症で、常時周りからの援助が必須な状態です。
・文章や会話などの理解はほぼできず、〇×や頷きなどの簡単なやり取りまでになりやすい
・理解が難しいことが多く、簡単な作業を見よう見真似で学習することになる
▼社会性について
・理解できる身振りはかなり限られる
・喜怒哀楽の表現も難しく、言葉での表現は難しい
・言葉かけに反応はするが疎通はかみ合わないことが多い
▼実用性について
・身の回りのことは自立してできず、ご飯や入浴、着替えなども援助が必要になるが、場合によっては可能なこともある
・能動的な活動は難しいが、音楽を聴いたり、テレビを見たり、穏やかに過ごすことは可能
・物を運ぶなど、簡単な作業なら行える
・自分を傷つける行為も見られる
常に誰かの助けが必要になるレベルなので、家族からの世話や、施設を利用して施設の人からお世話してもらうことが多いです。
援助者の負担がかなり大きくなるね…
知的障害の人のための支援3つ
知的障害の程度は重くなればなるほど、日常生活の面倒を見る家族などの援助者の負担が大きくなります。
誰も悪くない障害に対し、1人や2人で援助し続けるにはやはり限界がありますね…。
個人レベルでの対応として、下記は基本です。
・声かけやボディタッチを多めにする
・簡単な言葉を使う
・短く分かりやすくを心がける
加えて、知的障害に対する公的な支援を使って、援助の負担を減らし、本人が過ごしやすくなるようにしましょう。
①療育手帳
療育手帳は知的障害者に対する手帳で、地域によって愛護手帳など呼び方も変わります。
障害の区分や受けられるサービスも各自治体によって異なりますが、基本的には知的障害者のためになる制度なので取得をおすすめします。
・障害者雇用での就労が可能
・電車やバスなど公共交通機関の割引や無償化
・市営動物園や博物館など施設の割引や無償化 など
施設の利用では援助者(付き添い)も特典対象になる地域もあるので、援助者の金銭的な負担の軽減にもなりますよ。
個人の能力や仕事内容にもよりますが、障害者雇用で働くことも可能になります。
\ 知的障害のある人へのサポート /
各市役所の窓口や児童相談所で相談してみてください。
取得にはやっぱりIQが必要になるよ!
原則、子どもの頃からの困り感が認められないと交付されないため、早いうちに申請しましょう。
交付された療育手帳にはA1、B1など等級(重症度・要支援度)が記載され、等級によって受けられるサービスも変わってきます。
②特別児童扶養手当
特別児童扶養手当は、20歳未満の身体・精神障害児童を養育者に支給される手当です。
知的障害の場合も申請可能で、令和2年4月より、1級支給額は52500円 / 月、2級支給額は34970円 / 月になりました。
目安として、1級は知的障害重度、2級は知的障害中等度くらいです。
受給には家庭の所得制限もありますが、知的障害の子どもがいる場合は申請してみてくださいね。
くわしくはこちら。
金銭援助は助かるね
③障害年金
障害年金は、身体だけでなく精神・知的障害者のための年金で、障害内容で生活に支障が出る分をカバーしてくれます。
通常の年金は65歳以上から受給可能ですが、障害年金の場合20歳時点で受給は可能です。
ただし若くからの受給は重度の人からが多いですよ
受給に関する詳細は日本年金機構にあります。
国民年金加入の場合は『障害基礎年金』、厚生年金加入の場合は『障害厚生年金』が対象で、それぞれ1,2,3級の等級があります。
1級が重度、2級が中等度、3級が軽度ってイメージ
1級…781700円×1.25+子の加算
2級…781700円+子の加算
※子の加算…第1・2子は224900円、第3子以降は75000円
障害基礎年金の場合、3級は支給なし!
1級…自分の老齢年金×1.25+配偶者の加給年金224900円
2級…自分の老齢年金+配偶者の加給年金224900円
3級…最低保障額の586300円
※65歳未満の配偶者がいれば加算
個人的には3級も支給ある障害厚生年金の方がおすすめ
各支所や医師と連携することが年金受給の第一歩になるので、少しハードル高く感じるかもしれませんが、申請してみて損はありませんよ。
(むしろ利用できたらかなり助かるのでは…)
おわりに:公的支援をフル活用して本人は過ごしやすく、援助者は負担減を目指そう
知的障害の場合、障害の程度が重いほど本人も援助者も苦しむことが多いです。
知的障害の区分は4つあり、知能検査のIQを参考にするとこんな感じ。
② IQ49~35…中等度
③ IQ34~20…重度
④ IQ20未満…最重度
また、公的な支援として大きな制度が3つあります。
どれも障害レベルに応じて等級があり、等級によって受けられるサービスも変わってきます。
知的障害の人の環境を整えてあげることや、援助者が全体的なIQを把握し、繰り返しの注意や指導でどうにかなるのか、どうしても難しいのかを知ることが重要です。
公的支援は申請して判定されると、国から金銭的な援助を受けられます。
制度を知る・知らないでは雲泥の差があるので、制度を知らなかった関係者は本記事を機会に各自治体の市役所窓口などで相談してみてくださいね。
周りに知的障害の人がいなくても予備知識持っておけるとマル
参考資料
手元に置いておける知的障害に関する本ならこちらが分かりやすいです。
専門書より図解の方がとっかかりには有効
知識は本で随時確認しつつ、公的支援の利用は各種窓口へ相談に行くのが良いですね。
知的障害は院試であまり出ないけど、現場でいる知識だから追々覚えるようにな
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