こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
今回は、人の意思決定の心理学としてプロスペクト理論について解説します。
プロスペクト理論は、本来期待できる確率があっても個人の状況によって見方が歪んで判断してしまう心理です。
得する可能性よりも損したくない気持ちが勝ってぐちゃる心理
思考のバグの1種
ビジネスマンの中で有名な理論ですが、日常生活や恋愛でもあるある。
認知や思考の歪みの修正は難しいですが、「こういう心理が働くんだ」と知ることである程度冷静に判断できるようになります。
プロスペクト理論は臨床心理士・公認心理師の資格試験での出題もあり、仕事や恋愛などで思考のバグを減らすヒントにもなるので、しっかり押さえておきましょう。
こんな人におすすめ!
・プロスペクト理論を知りたい人
・人の心理に興味がある人
・失敗や損が怖くて一歩踏み出せない人
・「期間限定」「タイムセール」などに弱い人
・臨床心理士・公認心理師を目指している人
プロスペクト理論とは
プロスペクト理論は、不確実な状況での人の意思決定を理論化したもので、心理学者のD. カーネマンとA. トベルスキーが提唱しました。
自分の選択の結果、得する可能性と損する可能性を踏まえて人がどんな選択をしやすいかという内容で、ざっくり言うとこんな感じ。
・利益よりも損の方がでかく感じやすい
・得しそうな場合は確実に利益を得ようとしやすい
・損しそうな場合は何としてでも損を回避しようとしやすい
プロスペクト(prospect)は「期待」って意味
期待できる損得が状況によって歪む理論
得する方が良さそうにも関わらず、人は損に重きを置きやすく意地でも損を回避したくなる心理から、プロスペクト理論は損失回避の心理・法則とも言われます。
有名な実験
プロスペクト理論には2つの質問の有名な実験があり、分かりやすいので解説します。
答えてみてね
Q1:あなたの目の前に、以下の2つの選択肢が提示された場合どうするか
①100万円を無条件でGETできる
②コイントスで表なら200万円GETし、裏なら何も手に入らない
Q1では、①でも②でも100万円の得は期待できるにも関わらず、確実にGETできそうな①を選ぶ人が多いです。
ノーリスク時は「利益が得られない可能性を回避=確実な得が欲しい」んだね
Q2:あなたには200万円の負債があるとする。そのとき以下の2つの選択肢が提示された場合どうするか
①無条件で100万円減額され、負債の総額は100万円になる
②コイントスで表が出れば全額免除になるが、裏なら負債総額は変わらない
Q2では、①でも②でも-100万円が期待でき、Q1のように確実な①が多いかと思えば、ギャンブル性のある②を選ぶ人が多くなります。
リスク背負ってると「リスクがあってでも損を回避したい」んだね
「どうせもう失ってんだ…これ以上失う物はない…いっけえええ!(錯乱)」みたいな
損失回避のバイアスが働くと、
・今欲しい訳ではなくても、期間限定の値下げで物を買う
・恋人に不満があるけど、別れて独り身になるのが嫌で付き合い続ける
日常でもこんな心理に陥っている可能性があります。
ぐさぁ!
\その他バイアス編はこちら/
意思決定の2基準
プロスペクト理論による意思決定は、損得の感情を表す価値関数と、客観的な確率をどう評価するかを表す確率加重関数という2つの基準があります。
名前もグラフも覚えなくても良いんですが、どちらも人のバグを知れる面白い基準なので流し読んでみてください。
価値関数
価値関数とは、物事の価値は客観的な価値よりも主観的に捉えやすいことを表した関数です。
例えば100万円という価値はプラスでもマイナスでも変わらないはずが、+100万円の喜びよりも-100万円の悲しみの方が強まりやすい傾向があります。
D. カーネマンの実験で見出した価値関数によると、利益:損失=1:2~2.5ほどで、得よりも損の方が大きく捉えやすいと言えます。
感情ってすごい(浅はか)
また、グラフがだんだん横ばいになるのも特徴で、利益や損失が大きくなるほど価値観は鈍る傾向があります(感応度逓減性)。
1000万の宝くじ当たって更に追加で10万もらえても、大した事ねーじゃんって感覚マヒる感じ(10万でもでかいのに)
人の心理的には、とにかく損は避けたくて、得した状態でいたいというのが分かりますね。
ちなみに、上のグラフで100万円得しているときでも、更に得する喜びより損する悲しさの方が大きいので、得した状況下ではよりリスクを避けた安定志向になりやすいです。
反対に、100万円損しているときは、更に損する悲しさより得する喜びの方が大きい…。
つまり、損した状況下ほど、人はリスクをとって損失回避の一発逆転をしやすくなる傾向があります。
冷静になるべき時ほど人はギャンブラー(やけくそ)
▼価値関数より
✓損得と客観的感情は比例しない
✓得するより損する方が心理的ダメージは2倍以上大きい
✓得しているときは安定的
✓損しているときはリスキーになりやすい
確率加重関数
確率加重変数とは、実際の確率を歪めて主観的に捉えてしまう心理を表した関数です。
ざっくり言うと、高い確率で起こることには怪しみ、低い確率で起こることは「もしかしたらイケるかも…」と期待して、本来の確率を歪めて受け取ってしまうこと。
・当選者は自分かもと淡い期待をして宝くじを買う
・ぶっちゃけ脈ありな相手でも、振られたらどうしようと思って告白できない
・ポケモンの一撃必殺の命中率は2~3割なのに体感7割と思い込む
最後のは分かる人には分かる
共感しづらい例を挙げないで
主観による確率の歪め方はグラフにするとこんな感じで、大体3~4割の確率を境目に、低い確率は実際よりも高く見て、高い確率は実際よりも低く見やすい傾向があります。
天邪鬼なのか、人の認識がいい加減なのか…
・もしかしたら空き巣に入られるかも?と不安になり、セキュリティや保険の契約をする
・彼氏が浮気している可能性は高いけど「彼氏に限ってまさかぁ」と思う
冷静に考えれば確率は高い・低いだろうと分かることでも、人の主観は簡単にバグるので損をしやすく、悪い事考える人につけこまれたり騙されやすくなってしまいます。
(ビジネス的に応用するなら、商品の良さ(得)より商品を手にしないデメリット(損)を伝えるのが効果的ってこと)
まず起こらないだろうことに対して「もしかしたら」と、良くも悪くも期待してしまう心理が働くことを覚えておくと、少しは冷静になれるかもしれません。
▼確率加重関数より
✓高い確率のことを低く見積もりやすい
→自分の実力を過小評価するなど見誤りやすい
✓低い確率のことを高く見積もりやすい
→情報商材や保険を買うなど不安を煽られやすい
価値の基準は同じものでも人による:参照点
例えば同じ100円でも人によってその価値が異なるように、人には価値判断をする基準(参照点)があります。
状況や経験によって100円を重要視する人もいれば、100円くらい何とも思わない人もいますね。
つまり、人は100円という価値を客観的に捉えているのではなく、自分の参照点を軸にどれだけ離れるかで損得を判断する傾向があります。
人それぞれなのは当たり前でしょ?って思う人もいるかもだけど
客観的な物差しだからと言って感覚の共有はできないことを再認識すべし
人が如何に自分の基準で判断したがるかを改めて知っておくと、人の考え方を今より受け入れやすくなるかもしれません。
おわりに:心のバグがあることを知るのが対策の第一歩!
今回解説したプロスペクト理論とは、人は損することを大きく受け止めやすく、損を避けるためには時になりふり構わない判断をしやすい心のバグ理論です。
客観的な確率という基準があっても、人は自分の経験や主観をベースに考えやすい傾向があります。
損とか失敗がチラつくときに客観的要素はあまりアテにならないのかも
プロスペクト理論の考えをおさらいするとこう。
✓客観的な価値や確率より主観や経験を重視しやすい
✓得より損の方が2倍程でかく感じやすい
✓得しそうな場合は確実に利益を得ようと安定志向
✓損しそうな場合は何としてでも損を回避しようとリスキーな決定をしやすい
✓お得感や大損は大きくなるほど価値観は鈍りやすい
✓高確率の出来事は過小評価
✓低確率のことは過大評価しやすい
かみ砕いた例ならこっち!
・PS5の抽選に当選する喜びはオタクと一般人では重みが違う
・彼氏に内心不満だけど、ぼっちが嫌で惰性で付き合い続ける
・タイムセールや期間限定ポイントの利用でつい買い物をする
・借金を地道に返すのではなく、一攫千金を狙ってパチンカスになった
・冠婚葬祭など追加オプション(数万)くらい…と緩む
・模試でA判定の志望校に合格しても「運が良かった」と自分の実力を認めがたい
・「地元でも地震があるかも」と不安になり、勧められるがままに備蓄品を買った
誰だって損はしたくないと思いますが、目の前のちょっとした損や自分の経験・価値観に注目しすぎると、もっと大きな損をしてしまうことが多かったりします。
何か決断するときに冷静になるためにも、心のバグがあることを知り、客観的な視点もたまには頼ってみましょう。
コメント