こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
心理士と言えば心理カウンセリングを連想する人は多いですが、実は心理カウンセリングは言語面接のほかに遊戯療法(プレイセラピー)という遊びの心理療法があります。
✓遊ぶカウンセリングもあるの?
✓普通の遊びとどう違うの?
✓子どもが遊戯療法受けているけど何してるの?
上記の素朴な疑問を解消するために、今回は遊戯療法(プレイセラピー)の概要をざっくり解説します。
心理系大学院を目指す人には必須知識なので、用語や考え方はしっかり覚えましょう。
そうでない人も、子どもの発達障害や不登校、心の悩みなどへ力になれるカウンセリングがあると知ることができます。
子どもへの関わり方の参考にもなるかも
こんな人におすすめ!
・遊戯療法(プレイセラピー)に興味がある人
・子どもへの関わり方を学びたい人
・「遊び」でどんな効果が得られるか知りたい人
・教育や養育などの関係者
※心理系大学院受験生が必須!
遊戯療法(プレイセラピー:play therapy)とは
遊戯療法とは、言葉のやり取りがまだ未熟である子どもを主な対象とし、遊びを通して行う心理療法でプレイセラピーとも呼びます。
話し合いで想像しやすいカウンセリング(心理面接)についてはこちらを参考にどうぞ。
小学生程度までの子どもが行うことが多いですが明確な年齢制限はなく、知的障害をもった成人など言葉での自己表現が難しい場合にも適応されます。
子どもが安全かつ自由に遊んで自己表現できるように、おもちゃのあるプレイルームを利用します。
プレイルームはお話でも遊ぶでも基本自由
\ 箱庭で遊ぼ /
遊戯療法は言語面接同様、週1回、約50分などカウンセラーと約束して取り組んでいきます。
医療機関や療育センターなどで受けられるので近場で確認してみましょう。
遊戯療法の開発者は、児童精神分析に携わるA. フロイトやM. クラインらですが、両者の考え方は対立したのが有名(A. フロイトーM. クライン論争)。
\ 遊戯療法やるなら要復習 /
子どもに精神分析的な解釈をするかしないか言い合っているうちに、ロジャーズ派のV. M. アクスラインがどの遊戯療法の理論でも前提となる8原則を展開させました。
論争は歴史で、8原則が本命かな!
精神分析の用語解説は下記へ。
【脱線】子どもの精神療法・遊戯療法のおすすめ本
なお少し脱線しますが、子どもの精神療法の名著はこちら。
子どもの心の回復過程やセラピストとの関係性、見立て、感じ方などが分かりやすく、面白いので一瞬で読めます。
堅苦しい文章ではなくストーリーを大事に書かれているので、子どもの心や遊戯療法の流れが理解しやすいかと。
安い、小さい、読みやすいので是非読んでください!!
師匠の本はどれも面白いのでおすすめ
V. M. アクスラインの8原則
遊戯療法のスタンスに限らず、8原則は遊戯療法の基本として重要視されています。
①よい治療関係(ラポール)をつくる
②子どものあるがままの受容する
③子どもが自由に表現できるように許容的な雰囲気をつくる
④子どもの感情を反映させて、子ども自身の気づきを促す
⑤子どもが自信と責任をもてるように働きかける
⑥遊びは子ども主体で、治療者は非指示的態度をとる
⑦変化は長い時間を必要とするため、進行を急がない
⑧必要な制限を与える
学問って言葉にすると難しそうだよな
ざっくり補足していくよ
なお、あくまで原則なので、8つのことを厳密に守るわけではなく例外ももちろんあります。
①よい治療関係(ラポール)をつくる
遊戯療法に限らず心理カウンセリングの基本で、ラポールとはカウンセラーとクライエントとの間の信頼関係を指す言葉です。
人の悩みを聴いたり、問題改善をしていくには互いの関係性が重要です。
遊戯療法は、子どもと見知らぬ大人(カウンセラー)が2人きりで遊ぶ心理療法なので、子どもが安心できるようにラポールを形成することは必須条件と言えます。
しかも、遊戯療法の始まりは子ども自らではなく、『子どもに問題意識をもった親』からつれられてくることが多いため、通常のカウンセリング以上にラポール形成が大切と言っても過言ではありません。
「こいつと遊びたい」と思ってもらえたらOK
人の自然治癒力と人間関係はすごい
②子どものあるがままを受容する
子どもが遊びを通して表現すること(ポジティブ・ネガティブ問わず!)や子ども自身を受け入れることも大切です。
言葉や手紙で悩みを打ち明ける場合も、人形劇や絵などの遊びで表現する場合も、思いを受け止めることで子どもの自己表現も進みます。
否定とか引くとか伝わると心のシャッターは降りるよね
大人が思うより子どもは敏感やで
プレイルーム内のサンドバックにどれだけ殴っても部屋を散らかしても、遊戯療法では基本叱らず受容です。
家庭や学校なら怒られそうやな
「ここでなら基本何してもOKなんだ」と思えるような関わりを目指します。
基本は受容ですが、子どもの問題や安全性などに応じて注意は必要
③子どもが自由に表現できるように許容的な雰囲気をつくる
①と②がうまくできていれば子どもの自由な自己表現は促されやすいと思われますが、子どもが思ったことを言ったり、遊んだりできるように許容的な雰囲気をつくります。
・「~だね」など優しめな口調
・怒る、不機嫌など嫌な態度でなく接する
・子どもと目線を合わせて落ち着いた態度をとる など
非言語的(ノンバーバル)コミュニケ―ションも雰囲気づくりには大切ですね。
キッズ「(これやっても怒られないかな…)チラッ」←のチラッをくみとろう
ただし、許容しよう・信頼関係を作ろうとして「すごいね!」「できたね!」など過剰な褒めはしないように要注意。
褒められればプレイルーム内でも良い子を演じてしまうかもしれません(それでは心理療法にならず)。
「あるがまま」を受け入れる対応をしましょう。
おだてると許容は別
④子どもの感情を反映させて、子ども自身の気づきを促す
人形遊びやごっこ遊びなどを通して子どもが感情を乗せることもあれば、表情豊かに、あるいは僅かに感情表現をする際、カウンセラーは子どもの感情を伝え返したり、真似して見せて反映させます。
・「この人形さんは怒っているんだね」
・子どもが悲しそうだからカウンセラーも悲しそうにする など
自分がどう感じているのかよく分からないという子どもは意外と多いです。
「怒られるから悲しんじゃいけない」など感情を抑制する子どももいるため、子ども自身が感情に気づけるように促すことも遊戯療法の1つの技法と言えます。
筆者みたいなキッズ心が役立つ?!
⑤子どもが自信と責任をもてるように働きかける
周りの指示に従っては自信や責任を失いがちな子どもも多いため、子どもが堂々と遊べるように、感じたことに自信をもてるよう肯定したり子どもを信頼したりする関わり方も重視されます。
先述しましたが、「頑張ったね」「偉いね」などの褒めは、褒められる良い子を形成してしまう可能性があるためあまりしません(子どもによっては伝えますが)。
子どもはのびのびが一番だね
⑥遊びは子ども主体で、カウンセラーは非指示的態度をとる
遊戯療法では、カウンセラーから遊びの強要は原則しません(非指示的態度)。
プレイルーム内ではあくまで子どもがしたいように過ごし、遊ぶことを尊重します。
お喋り、プレイルーム内にあるおもちゃ(トランプや人形、おままごと、パンチングなど)で遊ぶ、何もせずぼーっとするなど何でもありです。
強要されたことではなく、子どもがやりたいことを思う存分やることで自己表現や治療も進みます。
カウンセラーはキッズに従います
筆者は全部全力で遊ぶぞ
ゲーム系でも容赦ないよね
加減無用!(※ケースバイケース)舐めプはすぐに伝わるんだよ
⑦変化は長い時間を必要とするため、進行を急がない
心の悩みや問題が早期に改善することは確かに望ましいですが、1発改善など急な変化は珍しいです…。
また、周りが焦ると子どもにも焦りが伝わり、「改善したいのにうまくいかない…つらい…」等の悪循環や停滞にもつながりがちです。
遊戯療法の原則というより、親やカウンセラーに向けた内容ですが、心の治療には時間がかかることを知っておきましょう。
身体のケガの完治も時間かかるのと一緒だよ
⑧必要な制限を与える
①~⑦まで、遊戯療法での安全や自由を保障するために、プレイルーム内では制限もあります。
▼遊戯療法の必要な制限の例
・カウンセラーや子ども自身の身体を傷つける行為(ケガが想定される暴力など)
・プレイルーム内のおもちゃなどを故意に壊す
・プレイルーム内の物や作った作品の持ち出し
・健康を害する行為(砂や小物を食べるなど) など
カウンセラーと子どもの安全確保や、自由な自己表現の促しのためのルールです。
壊れたおもちゃが良く働く場合もあるから要観察かな
ルールを守って楽しく!
遊戯療法(プレイセラピー)の効果
8原則を基本としたカウンセラーとの柔らかな人間関係の中、プレイルームで自由に安全に遊ぶことで、子どもは感じたことやありのままの自己表現ができるようになります。
不安だった気持ちが解消されるなどカタルシス効果も得やすく、心の状態が安定したり問題改善に向かったりという効果も期待できます。
すっきりして前向きになれるイメージかな。本人の力を取り戻せて勝手に良くなっていけるお手伝い効果だよ
また、制限を守りつつ遊戯療法でカウンセラーと関わる中で、子どもは暴力を控える、癇癪をこらえるなどのスキルを学ぶことも可能です。
普通の遊びとの違い
遊戯療法と日常での遊びに明確な線引きがあるかと言うと、遊びは遊びなので断言はしづらいですが、カウンセラーという寄り添ってくれる相手や制限があることなどで非日常を感じられる違いがあります。
「ゲームは1日1時間」とかとは違う制限と守りがあるね
「死にたい」「本当はあの人・あれが嫌だ」「自分はこう思う」など、日常では言いづらいネガティブな発言や感情でも、カウンセラーは否定せず聴いて、受け入れます。
また、日常での子どもは、暴れたら、散らかしたら、口が悪かったら怒られるなどのしつけがある日々で、大人の顔色を窺いながら過ごすことも多いですが、プレイルームでは基本叱られず、最低限の制限以外は子どもの自由が尊重されます(叱るも褒めるもする訳ではないので、問題行動を助長する訳ではありません)。
受容も自由も子どもにとっては困惑するくらい異質な体験になったりするよ
子どもや親からしてみれば遊戯療法は『ただ遊んでいるだけ』に見えがちですが、その『ただ遊ぶ』には子どもの心が回復する機能が備わっているのです。
アンテナ張りながら関わるカウンセラーも遊びを楽しむことが大切です(キリッ
おわりに:カウンセリングは言語面接だけじゃない!
カウンセリングと言うと言葉のやり取りをイメージしやすいですが、非言語の関わりである遊びがメインな遊戯療法(プレイセラピー)もあります。
遊戯療法では、遊びを通してストレス解消やカタルシス効果を得て、自分の気持ちを自由に表現していくことで、心の安定や困りごとの改善に向かっていくことが期待できます。
なお、母子は離れて、プレイルームではカウンセラーと子どもの2人で遊びますが、子どもが話したことや遊びの詳細について親から聞かれても、多くを語ることはしません。
なんだってー?!
子どもの自己表現を促すには、守られた空間は大切です。
Q:プレイルームで出せた言動をカウンセラーが勝手に親に漏らしたときの子どもの気持ちを考えよ
セラピー受けに来たのに疑心暗鬼を習得しそうだね…
遊戯療法を進めていくには親の見守りも大切で、そのことをきちんとカウンセラーが説明することもまた大切な仕事と言えます(親への心理教育も必要)。
言語表現がまだ拙い子どもでも心の悩みや問題は抱えることがあります。
うまく話せなくても困り感に寄り添ってくれる場所や方法はあるからね
遊戯療法や子どもの精神療法に興味がある人はこちらも是非手に取ってみてください。
座学で勉強しつつ、具体的な本を読んで子どもの心を肌で感じてみてください。
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