こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
今回は感情の表れ方に関する心理学のお話。
「泣くから悲しい」「悲しいから泣く」など言われますが、実は心理学者が感情の発生に注目したことで研究が進みました。
心理学では3つの理論が有名なため、本記事ではそれらを解説します。
✓ジェームズ=ランゲ説
✓キャノン=バード説
✓情動の2要因説
感情の発生について理解を深めることで、心と身体を少し落ち着かせてあげることもできます。
また、心理系大学院進学希望者は院試や資格試験で問われる可能性があるため、用語と考え方を抑えておきましょう。
こんな人におすすめ!
・心と身体の関係に興味がある人
・感情の発生プロセスが気になる人
・感情を少し落ち着かせたい人
・3つの理論を知りたい人
※心理系大学院進学希望者は必須
3つの情動理論
本記事でざっくり解説するのは以下3つの理論です。
・ジェームズ=ランゲ説(末梢起源説)
・キャノン=バード説(中枢起源説)
・情動の2要因説
ちなみに、心理学では感情(feeling)を情動(emotion)と気分(mood)に分けて捉えています。
情動とは一時的に表れる強い感情のことで、不安や恐怖、喜び、怒りなど。
一方気分は、比較的弱めである程度持続する感情で、うつうつとした感じやイライラなどを指します。
気分に比べて情動はよりはっきりとした感情で、人の行動ややる気、価値観などに関わってくる大事な感情です。
何も感じなくなったら怖いね…
ジェームズ=ランゲ説(末梢起源説)
ジェームズ=ランゲ説(末梢起源説)は、元々考えられていた「悲しいから泣く(情動→生理的な身体反応)」という順ではなく「泣くから悲しい(生理的な身体反応→情動)」という逆順序で情動が発生するとした理論で、W. ジェームズとC. ランゲが提唱しました。
外部刺激(出来事)があって→生理的な反応(泣く、動悸など)が生じて→反応を知覚して→悲しい、不安など情動発生という流れ
後に出たキャノン=バード説で批判されますが、情動に焦点を当てた大切な理論です。
ジェームズ=ランゲ説を踏まえてS. トムキンスが提唱した顔面フィードバック説によると、「笑うから楽しくなる」ような表情と感情の関係は確かにあるとか
身体の末端から感情を拾ってくるイメージ
キャノン=バード説(中枢起源説)
キャノン=バード説(中枢起源説)は、情動と生理的な反応は同時に起こるという理論で、W. キャノンとP. バードが提唱しました。
外部刺激が脳の視床に辿り着き2分化
→1つは大脳皮質へ。情動を生成
→1つは視床下部へ。生理反応を起こす
大脳皮質は大脳の表面の薄い層、視床は脳の真ん中らへん(中脳の上)、視床下部は視床の下だぞ!特に視床下部は自律神経を調整したり摂食行動を促進する試験ホイホイ
(脳構造もざっくりまとめたい)
情動のきっかけになる外部刺激の情報が脳に到達してから情動が発生するため、身体の中心(中枢)から感情が湧き出るイメージ。
なお、ジェームズ=ランゲ説もキャノン=バード説もどちらも部分的な支持で、感情の理論ははっきりしていません。
どっちも分からんでもないもんね
2つの理論では、同じ泣くでも悲しかったり嬉しかったりなど、同じ生理的な身体反応で異なる感情が出てくる理由の説明ができないのです…。
そこでもう1つの理論。
情動の2要因説
情動の2要因説とは、情動は生理的喚起(生理的に起こる反応)とそれに対する認知的な解釈で生じるとし、S. シャクターとJ. シンガーが提唱しました。
感情は自分の捉え方次第?
▼大学生に○○を注射して、怒っているサクラと同じ部屋で待機させてみた
①ビタミン剤(本当はアドレナリン)を注射→大学生は怒りを感じた
②ビタミン剤を注射→特に情動なし
③後に興奮するだろう説明を添えてアドレナリン注射→特に情動なし
①はアドレナリンを注射されて興奮(生理的喚起)+なぜ興奮するか分からず「周り同様に自分も怒っている」と認知的に解釈して怒ったと考えられます。
②はそもそも興奮(生理的喚起)なし、③は興奮(生理的喚起)してもその理由は注射によると認識できたため情動は生じなかったという考え方。
物事の原因を推論して「~なのは…だからだ」と因果的に解釈することを心理学では帰属という
ちなみに、恋愛心理学でイキる人御用達の吊り橋効果(by ダットン&アロン)も情動の2要因説の代表です。
▼吊り橋効果
吊り橋を渡って異性と出会うときの感情をチェックする実験。
吊り橋を渡ることで生じる恐怖や興奮、心拍数の増加などの生理的反応を「異性と会ったからだ!」と間違えて解釈してしまうことがあるとか。
ご 都 合 解 釈
\ 恋愛版はこちら /
情動の2要因説は、生理的な身体反応をもとに情動が発生する点では最初のジェームズ=ランゲ説と通ずるものがありますね。
この理論で決まり!ってのはないね
3つの感情理論を踏まえて
どの理論も「これが正解!」といえるものではなくて「一理あるかも…」と思える程度。
なので、無理に当てはめようとせずに自分に合いそうな考えを拾ってみると心身を落ち着けやすいと思います。
たとえば「泣くから悲しい」ジェームズ=ランゲ説で言えば、笑顔をつくったり身体を動かしたりすることで、楽しい気持ちになれたり心がほぐれたりが期待できます。
割と心が健康なときはそうかも
もちろん、必ず有効という訳ではないので「つらいけど無理して笑顔で頑張る」は多用しない方がいいかと…!(人間社会では時に必要なスキルですが、多用しすぎると本心と表情が合わずに苦しくなってしまうので)
また、「悲しくて泣ける」ようなキャノン=バード説で言えば、感じたことは素直に表現できる方が心の健康を保ちやすいと思われます。
ネガティブな感情も時には素直に感じる方が健康的
人前では感情を抑えることが大切な場面もまたありますが、それを続けるのも苦しくなってしまいます…。
何かが起きたり見聞きしたりすれば感情は生まれるものなら、感情を出せる場所・相手には素直に出していきましょう。
「こんなことでムカついちゃダメ!」じゃなくて「あぁ自分ムカついたんだなぁ」って自覚することも大切ですね。
「感情を抑える=コントロール」ではないよね
また、情動の2要因説で言えば、イライラやドキドキなど生理的な反応が起きる自分の状態を冷静に振り返ったり、感情的な人がいたら少し距離を置いてみたりすると感情の誤認識を減らせると思います。
もう1人の自分が見ている感覚で、自分の今の状況を言葉にしてみると振り返りやすいかと。
\ この考え方が大事 /
その場の雰囲気で感情は感染していくこともあると覚えておきましょう。
おわりに:どんな情動にも耳を傾けてみよう
今回は、心理学上で有名な3つの情動理論を解説しました。
・ジェームズ=ランゲ説(末梢起源説)
・キャノン=バード説(中枢起源説)
・情動の2要因説
どれかが正しい訳ではなくどれも頷けることがあり、感情の発生や対応に正解はありません。
理論に当てはめはできないのかも
人間はロボットではないですし、感情の生成を完全にコントロールすることは難しいです。
ポジティブもネガティブもいろんな感情が生まれるのも人らしさ。
無理に抑え続けたり、ネガティブな感情を感じないようにしたりが社会では求められるときもありますが、それが良いこととは限りません。
✓心が比較的健全なら(気持ちに余裕があるなら)、笑って楽しくなるなど形から入ってみる
✓つらいときは素直につらいと認めてあげる
✓錯覚しないように自分の状態を振り返るようにする など
感情をコントロールしようと躍起になるより、自分が感じることを認められるようになると少しは落ち着けるかもしれません。
感情と表情や言動はなるべく合わせてあげよう
コメント