こんにちは、臨床心理士・公認心理師のしあんです。
人の心の悩みを改善していく心理療法にはいくつか種類があり『家族療法』という考え方もあります。
たとえば「子どもが不登校で困る!子どもに問題があるに違いない!」という場面はよくありますが、必ずしも不登校の子どもが問題という訳ではありません。
今回は、家族療法に関する基本的な考え方や用語解説をします。
心理系大学院の院試でも家族療法は出題が多いため、受験生のみなさんは家族療法の考え方や人名をしっかり覚えましょう。
また、一般の方は考え方の1つとして見てみてください。
登校渋りや問題行動を起こす家族に対する見方が少し変わるかもしれません。
※筆者は家族療法覚えるの大苦戦したらしい
こんな人におすすめ!
・家族療法について最低限の知識を身につけたい人
・子どもの問題行動に困りやすいパパママ
・家族などの集団に興味がある人
※心理系大学院受験生は必須!
家族療法(Family therapy)の考え方
家族療法とは、ざっくり言えば家族を1つのシステムとみなして、ある家族の問題は家族システムが十分に機能していないために生じると考え、家族システムが十分に機能する介入を目指す心理療法です。
なるほど…(分からん)
たとえば、元気に学校に登校できていた子どもが突然登校渋りを見せ、不登校になったとします。
不登校と聞けば親は困り、子どもが問題のある子だと捉えることも多いですが、果たして本当に子どもの問題なんでしょうか。
・学校で友だちとケンカやいじめがあって嫌になった?
・授業についていけなくて嫌になった?
・学校に長時間いるのがつらくなった? など
学校でのトラブルや性格など子ども本人の問題である場合もありますが、そうでない場合もあります。
▼家族の問題の例
・母が子どもを放置気味
↑父が子どもに厳しくするから母はバランスとってる
↑子どもはしっかりしなきゃと思い両親に甘えるのが苦手
これは…不登校の子どもにだけ問題があるというの??
否、子どもなりのSOSとかありそうだよね
このように、不登校の子どもが原因と捉えるのではなく、家族それぞれが問題の原因であり、結果である可能性があると捉え、この考え方を円環的因果律と言います。
「友だちとケンカして気まずいから学校に行かない」など直接的な原因―結果がある場合は直接的因果律と言う
通常の個人カウンセリングでは、心の病気や悩みをもつクライエント本人の症状や心に焦点を当てて困りごとの改善を目指します。
一方、家族療法ではクライエントを含む家族関係に焦点を当て、クライエントの困り感を家族の問題と見立てて改善を目指します。
家族療法の考え方なら、個人に焦点を当て続けても改善しない問題を改善するきっかけになりえるんです。
(両親不仲で家に帰りたくない)不良娘だけカウンセリングさせようと病院に連れていくのはどうなんだろうね
家族の誰かに問題があるときは、家族関係を振り返るのも大事
記事末尾にもありますが、家族療法についてはマンガで概要を知れる良い本があるので、マンガ好きや心理学に興味がある人は是非読んでみてください。
(筆者の紹介って大抵漫画or安価)
IP(Identified Patient:患者とみなされる人)
家族療法の考え方では、患者とみなされる人(「問題児」など…)をCl.(クライエント)ではなくIP(アイピー)と呼びます。
あくまで個人の問題ではなく、家族システムが十分に機能していないことが原因と捉えて、IPの問題を解決するために家族の機能を回復させると考えです。
家族の問題をIPが代表して担っている感じ
家族関係って思っているよりかなり重要なんだな
家族療法の学派(※専門向け)
家族療法には多くの学派があり、心理系大学院進学や心理職を目指す人は、各学派の大まかな特徴と人名を覚える必要があります。
①コミュニケーション学派
①‘戦略派
②構造派
③多世代派
ほかにもあるけど最低これらはチェックしよう!
ちなみに、家族療法の各学派に大きく影響を与えた理論として、G. ベイトソンの二重拘束説(ダブル・バインド)が有名です。
二重拘束説(ダブル・バインド)は、矛盾する2つ以上のメッセージを同時に受け続け、それらに対して逃れられない状況のことで、統合失調症の原因とも考えられています
たとえば、母親が子どもに対して「こっちにおいで^^;(チッ、めんどくせぇな忙しいからこっち来ないで~)」と、肯定的な言葉かけをしながら否定的雰囲気を醸し出しているとします。
子ども「どうすればいいか分からん(困惑)」
つまり、個人の問題や病気は日常のやりとりから生じる可能性があるとして、人の内面以外にも「個人を取り巻く(家族)システム」も重視するようになりました。
※院試頻出概念です。覚えよう!
\ 統合失調症とは /
以下で、各派についてざっくり紹介します。
①コミュニケーション学派
コミュニケーション学派はD. D. ジャクソンによる家族療法で、家族システム間でのコミュニケーションの機能不全による悪循環に注目し、改善を目指す学派です。
家族それぞれの内面は問わず、家族としての役割や関係性を重視します。
コミュニケーション学派はダブルバインドの考え方を汲んでるよ
①’戦略派
コミュニケーション学派には、J. ヘイリーが提唱した戦略派も含まれます。
戦略派は、家族間の悪循環を素早く・効果的に改善していくために積極的に技法を使う特徴があり、M. H. エリクソン提唱の逆説的介入(パラドックス技法)が有名。
逆説的介入(パラドックス技法)は、個人の問題に矛盾する介入をすることで、どう転んでも問題改善につながる結果を得る方法。たとえば、怒りっぽい人に「今怒って」と介入して、①その場ですぐ怒れたら『怒りをコントロールできている』。②怒れなかったら『怒りを抑えられた』とする
屁理屈と言わないで
②構造派
構造派は. S. ミニューチンによる家族療法で、家族システムの構造に特に注目した特徴があります。
親子関係や兄弟関係など、家族内での関係性に治療者が入り込み、家族間の葛藤を明らかにして改善を試みるものです。
家族の輪に入れてもらうことをジョイニングと言う
家族に限らず、まずは人の輪に合わせて入れてもらうことは大事だね
部外者が偉そうにするのが一番嫌い
③多世代派
多世代派はM. ボーエンが体系化した家族療法で、樹形図(ジェノグラム:家族の家系図)を使って、家族間の遺伝や発達の様子などを知って、家族関係の改善を目指します。
家族関係は、代々親から子へと世代間伝達されていくと考えて、家族に問題意識をもってもらうことがポイントです。
家族療法の技法・リフレーミングとは
リフレーミング(再枠づけ法)は、問題を問題と捉えずに新しい意味づけを行うことです。
否定的な受け止め方を肯定的に変えることで、心理的な苦痛を軽減する効果があります。
たとえば、不登校である子ども本人は「学校に行けない自分って悪いのかな…?」や、その親は「不登校のうちの子に何か問題があるに違いない」など、当事者たちはものの見方が固定されやすくなりがちです。
偏った思考はいつだって危険
心理士や第三者が「不登校=前より親子の時間をとれるきっかけづくり」など別視点を提供することで、本人や家族の見方を変えることも可能に。
もちろんリフレーミングしても、不登校とかの問題自体は変わりません。
問題解決していくためには、考え方を柔軟にして問題を捉え直すことに意味があることを覚えておきましょう。
リフレーミングは日常でも使うと気持ちが楽になるよ
おわりに:人間関係は個人に大きな影響を与えうる
人の心の悩みや精神疾患はあくまで個人の症状ですが、その原因や影響の一要因として家族システムも関係ある可能性は高いです。
「子どもが弱いから不登校になった」「父親が勝手にうつ病になった」などと思い込んで、問題がある人と認定しても改善しないこともあります。
(機能不全家族で「子どもに問題あり!」って主張する親は結構多いのだ…)
そんなときは個人をIPと見立てて、家族仲が良いかなど家族が十分に機能しているかを振り返る考えももってみましょう。
各学派については、心理系大学院や心理職を目指す人は、せめて学派と代表者の名前は覚えましょう(試験に出るので)。
学派 | 人名 |
コミュニケーション学派 | D. D. ジャクソン |
戦略派 | J. ヘイリー |
構造派 | S. ミニューチン |
多世代派 | M. ボーエン |
また、下記の本は家族療法の考え方をざっくりマンガで解説しているため、一般の方から心理学関係の人まで読みやすいですよ。
マンガは活字苦手な民にめっちゃありがたい!
(ただマンガ読みたいだけなやつ)
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